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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 16ー17
「というか、べつにいいでしょ」
黙り込んだ行人から視線を外して、四谷が吐き捨てる。
「榛名には高藤がいるし、荻原だっているじゃん。会長も、寮長も榛名のことかわいがってるし。それ以上なにがほしいわけ?」
「でも」
高藤は、べつに、四谷が言っていたとおりで、俺のことが一番で特別だから一緒にいてくれているわけではなくて。荻原は、四谷のことをきちんと気にかけて心配していて。
成瀬さんも茅野さんも、たしかに自分のことを後輩としてかわいがってくれてはいるけれど、きっと、高藤に対するほどではなくて。そういう意味で一番なわけでも、特別なわけでもなくて。
それで、四谷には、朝比奈や岡や、中等部にいたころから仲の良い友達がいて、だから、俺が声をかける必要はなくて。
ぐるぐると巡る思考の中で、でも、と行人は繰り返した。
言い訳でしかないけれど、自分は、いろいろなことを同時に考えることができるほど器用ではない。四谷のこともきっと大丈夫だろうと高を括っていて、今になって急に罪悪感に駆られて押しかけているだけでしかない。
でも、気になっていたことも、本当のつもりだ。ようやく少し親しくなった、友人として。
苛立ったふうな舌打ちが響く。
「ちょっと前まで、なにもいらないって顔してたくせに。随分、変わったんだね、榛名は。よかったね」
それが嫌味だとわからなかったはずもない。けれど、なにも言えなかった。
溜息を残して扉が閉まる。その扉の前で立ち尽くすことしか、もう行人はできなかった。
談話室の方向から響く賑やかな声が、なんだか妙に乖離している感じがした。
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