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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 17ー16

 自分の心のうちを誰かに伝えようと思ったことも、伝えたいと思ったことも、たぶん、自分はほとんどない。  本心を伝えたところで、なにが変わるとも思えなかったからだ。他人に期待はしない。アルファに気を許すなんてもってのほか。  自分のことは、すべて自分で責任を持って処理をして、アルファとしてひとりで生きていく。  それが人生の指針で、すべてで、唯一の生きる道だった。  ――それなのに、なんで、こう、揃いも揃って、頼れだの、話し合えだの言うんだろうな。  自分の言動に原因があるらしいとわかっていても、言ってくる相手が軒並みアルファであるところが、どうにも余計に癪に障る。その感情も、半ば以上ただの条件反射だとわかってはいるけれど。  夜の寮の中庭から、煌々と明るく光る食堂を見やって、成瀬はそっと息を吐いた。  なにかしらのイベントのあとに、寮で慰労会が行われるのは、どこの寮でもある恒例行事のようなものだ。不審に思われない程度の顔見せは済ませているので、もう少しくらい中抜けをしても許されるだろう。  自分がこうして適当に抜けることは同級生であれば知っていることで、部屋に戻らないだけ協調性を提示しているつもりだ。

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