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パーフェクト・ワールド・エンドⅢ 17ー20
「そうだな」
なんでこんなことを話しているのだろうとも思うのに、不思議と妙に凪いだ気分だった。
たぶん、本当に、いくらでもあるのだと思う。たとえば、自分がアルファではなかったと知ったとき。アルファではない自分は受け入れてもらえないのだと悟ったとき。無条件で愛されることはないのだと知って、必死でアルファになろうとしていても、簡単に自分の身体に裏切られる。
それのなにを、怖くないと言えばいいのか。俺は、自分が、自分が求める自分でいることができないことが、一番、怖い。
だから、その根底を揺るがそうとするものは、なにも受け入れられない。そう思っていた。
「あのときは、怖かった、かな」
「あのとき?」
「うん。どう取り繕っても、誤魔化しても、アルファじゃないんだなって思い知ったとき」
ただの事実を伝えように、淡々と成瀬は言った。
本格的な発情期を、アルファのいる場で迎えそうになったことが怖かったわけではない。
圧倒的な強者であるこの男に恐怖を覚えてたわけでもないし、薬で治まらないのなら適当なアルファで発散するほうが合理的だと思っていたことも本当だ。ただ――。
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