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パーフェクト・ワールド・ゼロⅤ④

「それに、ほら、櫻寮にはさ、頼りになる先輩がいるんじゃなかったっけ」  なんて。他意のひとつもない調子で水城は嘯いた。 「あれ、でも、そうだとすると、ちょっと変な気もしちゃうなぁ」 「変って、なにが」  乗らないことには話が終わらないと踏んだのか、四谷は渋々と話を促しにかかる。ああ、そういう、中途半端なところもらしいなぁ、と思う。いっそのこと、無視をしてもいいのに。まぁ、そんなふうに強気になんて、出ることもできないんだろうけど。 「ううん。これは、もし、本当に四谷くんが脅されてたらっていうたらればの話なんだけど」  そう。あくまでたらればの仮の話なんだけどね、と。水城は愛らしくほほえむ。 「もし、そうだったとしたら、三年生の先輩たちは、もうぜんぶ知ってるんじゃないのかなぁと思って。だって、あの人たち、知らないことはないらしいし」  すごい自信だよねぇ、と嘲る代わりに、ぽんと芝居がかった仕草で手を叩く。こういった動作が滑稽に映らないのは、ひとえに自分の見目が良いからだ。  どうすれば人の視線が自分に向くのかも、どうすれば人が自分に夢中になるのかも、あるいは、どうすれば、人が苛立つのかも。水城はすべてわかった上でやっている。  ――だから、僕の目論見が失敗することなんて、絶対にないんだ。

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