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パーフェクト・ワールド・ゼロⅤ⑧

**  教室に、ひとりでいることが怖くなった。  話し声が響く昼休み。自分の席で午前の授業で出た課題をやりながら、行人はそっと溜息を呑み込んだ。  ちらと動きそうになる視線をノートに固定して、文字を見つめる。働かない思考を持て余したまま、べつに、と自身に言い聞かせるように行人は思う。  そう。べつに、教室にひとりでいることは、なにも珍しことではなかった。中等部にいたころは、高藤に「もう少しでいいから交流をしろ」と口を酸っぱくして言われる程度にはひとりを貫いていたし、高等部に上がっても、そのスタンスを貫いていた。  そのほうが楽だったからだ。余計な気を張らなくて済むし、ひとりでいることに抵抗もない。クラスメイトと仲良くしたいとも思わない。まぁ、べつに、喧嘩をしたいわけでもないけれど。  そんなふうだった日常が少しずつ変わって、ただのクラスメイトよりも親しいと思うことのできる相手ができた。  なんとなく一緒にいることが自然に感じるようになって、もちろん、気を使うことはあるけれど、あれ、案外、誰かといることも悪くないな、なんて勝手なことを思うようになって。でも――。  ……だから、なんだろうな。  一度、そんな感情を知ってしまったから、ひとりだったらどうすればいいのかわからなくなった。みっともない話だと思う。

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