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パーフェクト・ワールド・ゼロⅤ⑨

 自覚しているし、なによりも、いじめられているわけでもなければ、無視をされているわけでもない。むしろ、どちらかと言わなくとも、自分が勝手に避けているだけなのだから。  もう一度溜息を呑み込んでノートを閉じると、行人は立ち上がった。昼休みが終わるまで、まだあと十五分はある。 「あれ、榛名。どっか行くの?」 「うん、ちょっと」  目敏く岡に声をかけられて、ぎこちのない笑みを浮かべる。そのすぐ隣にいる四谷には視線を向けないようにして、行人は続けた。 「生徒会。まだちょっとバタバタしてて。昼休みも手伝えたら手伝ってほしいって言われてるから」  半分は、本当だった。新しい体制に移行する引き継ぎ期間中の今、高藤が忙しそうにしていることは嘘ではない。けれど、昼休みにまで顔を出してほしいと言われたことは一度もなかった。  成瀬たち三年生は引退してしまうものの、以前から在籍して補佐をしていた二年生たちはそのまま残ってくれることになっている。そのおかげで、いくらか気が楽になったと高藤は言っていた。  だから、べつに、自分の手伝いは、そこまで求められていないのだろうと知っている。 「あぁ、そっか」  けれど、岡は納得したようだった。五限遅れないようにね、とほほえまれて、うん、と行人も頷いた。そのままふらりと教室を出る。四谷とは、最後まで目は合わなかった。

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