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パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 1-10

「それ、向原さんにも言われました」 「そうか」  らしいなという調子で頷いた茅野が、まぁ、と話を続ける。 「そういうことだ。あまり無理はしないようにな」 「はい。……あの」 「なんだ?」  早々に通り過ぎようとした茅野を呼び止めたのは、ほとんど反射だった。 「なにか聞きたいことでも?」 「いや」  あっさりとした、先ほどと変わらないいつもどりの笑顔。けれど、皓太は結局その先を呑み込んだ。  聞けば答えてくれるのかもしれないけれど、向こうから言わないものを、この段階であえて聞くことはないと思ったからだ。 「なんでもないです。すみません、引き留めて」 「ならいいが」  すんなりと納得したそぶりに、正解の反応だったらしいと悟る。再び歩き始める手前で、ふと思い出したという調子で茅野が言い足した。 「オーバーワークまで真似をするなとは言ったが、頼る相手は今のメンバーにしておけよ。そうじゃないと意味もないし、せっかく残ることを選んだ二年が気の毒だ」 「そうですよね。そうします」 「それに、……まぁ、おまえはわかっていると思うが、成瀬も成瀬で忙しいだろうからな。追い込み時くらい、受験に専念させてやれ」  軽い口調ながらも、ぐさりと釘を刺された気分だった。ただ、そのとおりだとわかってもいたので、「ですね」と頷く。

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