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パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 2-4

 静かに扉を引いて、中に入る。幸いというべきか、予想以上に図書室にいる生徒は少なかった。受付の前を通って、書架の奥に点在している長机のスペースに行先を定める。  読書や、テスト前などは勉強をしている生徒が多い場所だが、この程度の込み具合なら空いているだろうと思ったのだ。  その想像も当たって、机を使っている生徒の姿もまばらだった。ほっと息を吐いて、どこに座ろうかと視線を巡らした瞬間、顔を上げたひとりと目が合って、思わずと言った声がこぼれる。 「成瀬さん」 「珍しいな、行人がここに来るの。勉強?」  そう言いながらも、成瀬は驚いているふうでも、邪魔されたことを面倒に思っているふうでもなかった。  にこ、とほほえむ変わらない柔らかな調子に、勝手にふらりと足が彼のもとに進む。生徒会の引き継ぎが終わったあたりから、顔を合わせることはあってもあまり喋っていなかったので、なんだかすごくひさしぶりで、抗うことができなかったのだ。 「座る? いいよ、ちょうど休憩しょうと思ってたところだから」 「あ、……すみません」  ありがとうございます、と呟くように言って、向かいの席を引く。机の上には参考書やノートが広がっていて、この人も勉強するんだ、とあたりまえのはずのことを行人は思った。

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