1053 / 1144
パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 2-7
その行人をじっと見つめていた成瀬が、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「それとも、本当になにかあるなら、聞こうか」
「えっと……」
優しい表情を見ていたら、言う必要のないことまでぽろぽろとこぼしてしまいそうで、うつむく。
まだこの人が正しく生徒会長だったころ、距離を取られているのではないかと疑ったことがあった。もちろん、冷たく拒絶される、というようなことではなかったのだけれど、やんわりと「これが本来の先輩後輩の距離だよ」と諭されているような。
そうして、それは、高藤が会長になってからも続いていて。必要な引き継ぎが終わると、あっさりと顔を出さなくなった。その彼が、またこんなふうに尋ねてくれている。
きっと、自分が、それほどの態度を見せているのだ。駄目だな、と呆れた。本当になにも変わっていないし、心配させ続けている。
「……成瀬さんは」
「なに?」
「勉強ですか」
質問の答えとまったく関係のないことを問うた行人に、成瀬は苦笑したようだった。ぱら、とページを繰る音がする。
「まぁ、一応、受験生だしね。行人がどう思ってくれてるのかはわからないけど、俺はけっこう努力型だから」
予想外の返答に顔を上げると、ばちりと目が合った。その瞳がにこりとほほえむ。かつてずっと好きだったもの。
「天才型っていうのはね、あんまり認めたくないけど、篠原みたいなのを言うの。あいつ、本当に勉強してないのに、それなり以上にできるからね」
ともだちにシェアしよう!