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パーフェクト・ワールド・エンド5-5
「なぁ、成瀬」
変化のない応答に呆れたのか焦れたのか。まるで懐柔にかかったような声を向けられて、書類から視線を上げる。
「これは、向原にも、前に言った話なんだけどさ」
「なんだよ、改まって」
成瀬は笑ったが、篠原は笑わなかった。
「俺は、小学校のころから向原を知ってる」
「そういや、一緒の学校だったんだよな」
「あいつと、本尾もな」
そう考えれば、長い付き合いだ。
「ずっと、醒めた目してる奴だったよ。なんでもできて、だからこそなのかな、いつもつまらなさそうで。本尾に絡まれても、何の反応も返してなかったな、今思えば」
「……」
「それが、ここの中等部に入って、おまえと逢って、すごい変わった。本当に変わった」
それは、俺が別に何かしたと言う訳ではないのだろうと成瀬は思った。ただ、きっと、成長の過程でそのタイミングが合っただけだ。なのに、篠原は言う。
「俺は、あいつがあんな風に動くなんて知らなかった。誰かを大事にしようとするなんて思わなかった。こんな風に、あいつと喋れる日が来ることも信じられなかったし、あいつのことを心配する日が来るとも思っていなかった。でも、それのどれをも悪くないって思ってる。なぁ、成瀬」
「だから、なんだよ」
「あいつは、おまえのこと、大事にしてると思う。大事だと思ってると思う。変な意味じゃなくて」
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