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パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 5-10
このあいだ、と聞き返すと、四谷のこと、と恨みがましい調子で榛名が言う。その答えに、ああ、と小さく唸る。たしかに聞いた。聞いたし、流した。
また言ってるよ、と思ったからだ。覚えたきまずさで「ごめん」と謝ると、意外にも「べつにいいけど」と本当にべつにいいと思っている調子で榛名は表情をゆるめた。そうしてから、念を押すように繰り返す。
「とにかく、そういうことだから。言わないと思うけど、四谷に言うなよ、余計なこと」
「わかってるって」
「それと……」
「それと、なに?」
迷うように揺れた語尾に、きつくならないよう意識して聞き返す。悩むような様子を見せつつも、結局こう続けた。
「これは俺の余計なお節介なのかもしれないけど、余計なことは言わないでほしいけど、余計なことも誰かに言わせないでほしい」
俺と四谷の問題だから、と榛名が言う。だが、難しいことだとわかっているのだろう。どこか諦めたような雰囲気がにじんでいた。適当に誤魔化して請け負うことはせず、小さく溜息を吐く。
「それはもちろん気をつけるし、荻原にも寮のことは気をつけてほしいって頼む気ではいたけど」
「うん」
「完全には無理だと思うよ。おまえと四谷の問題でも、場所が教室だったわけだろ。それを見たやつがどう感じるかはそいつの問題になる」
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