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パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6-5

 誤魔化すことを諦めたそれに、四谷はうつむいたまま、けれど、たしかに頷いた。だよな、と唇を結ぶ。  聞こえていないわけはないと思ったし、無反応を貫かれるよりは良かったのだろうとも思う。ただ、このあとになにをどう言えばいいのかの答えは出なかった。  黙ったままでいると、四谷はくるりと背を向けた。そのまま教室とは反対の方向に歩いていく。 「四谷」  行人は、反射でそのあとを追った。ちらりとも視線を寄こされることはなかったけれど、四谷は「来るな」とは言わなかった。追い払うように足が速くなることもない。無言の背中を許可と捉え、追いかける。  人の少ない廊下にチャイムの音が響く。またサボってしまったな、とほんの少し思ったものの、今から教室に戻ろうという気は起きなかった。  ――前も、四谷のことでサボったんだっけ。  自分の成績が良いと思ったことはないから、行人は真面目に授業を受けるようにしている。落ちこぼれにならないようにこれでも毎日必死なのだ。  でも、そういった自分のことよりも、大事にしたいこともあるのだと知って。今に限って言えば、それは四谷だった。迷いなく歩いていた四谷の足が保健室の前で止まる。予想していなかった場所に、行人は思わず「え」と小さな声をもらした。行人のほうを見ることなく、四谷が呟く。 「べつに調子悪いとかじゃないから」 「え……っと、なら、なんで」 「教室にいるのが嫌だったから、休ませてもらってた。そのくらいの融通はつけてくれる。……まぁ、家には連絡いってるんだろうけど、べつにいいよ。適当に弁解するし」

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