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パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6-16

 そういうルール違反は見つけたらすぐに言えと茅野は頭の痛い顔をしていたが、必要以上に叱るようなことはしなかった。  当事者ではなかったので、「だろうなぁ」という感想しかなかったのだが、四谷はほっと安堵した顔をしていた。ちなみに、というほどのことではないのだけれど。茅野は、行人が「なにを盗られたわけでもないので大事にしたくない」と言い張ったときのほうが呆れた顔をしていた。  ――まぁ、それでも、結局、……なんていうか、俺の嘘ってわかってても乗ってくれるんだから、ありがたい話だよな。  信用と言い換えてもいいのかもしれないけれど。……いや、でも、あれは、無意味な意地を張ってるって思われていたような気もするな。そう、行人は思い直した。  高藤が、そういう顔をすることがあるのだ。無駄な意地だし、合理的でもないと思っているけれど、その根幹にオメガという性に対する葛藤があるのであれば、自分が不用意に口を出すべきではないからと呑み込むような顔。まったく真っ当な価値観だと思う。  寮の五階と四階の踊り場で、行人はそっと溜息を吐いた。茅野に話をしにいくという四谷に着いてきたのだが――自分が部屋の鍵をなくしたことが発端である以上、首を突っ込む権利はあると思ったのだ――、ひとりで話したいことがあると言われてしまったのである。先に一年生のフロアに戻る気になれなくて待っているものの、やっぱり少し落ち着かない。

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