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パーフェクト・ワールド・エンドⅣ 6-17

 ……帰ろうかな、部屋。  茅野から、待ちたいなら五階の談話室を使えばいい、と許可を受けたものの、さすがに勇気が出なかったのだ。踊り場のほうがまだマシと思っていたけれど、あまり変わらなかったかもしれない。  どうしようかなぁ、と考えていると、階段を上る静かな足音が響いた。邪魔にならないよう慌てて壁に背をつける。だが、「こんばんは」と言うつもりだった挨拶の代わりに喉からこぼれたのは「あ」という不躾なそれだった。 「向原先輩」  こぼれ落ちた声を誤魔化すように呼びかければ、相手の足が止まる。無視されなくてほっとしたような、呼び止めておいて続ける言葉がないことに慌てるような。  いや、でも、きっと、呼び止めてすみません、と一言言えば、話は終わるのだろうけれど。  ――あ、でも、あれ以来なんだな。  四谷のことで落ち込んでいて、たぶん、あまりにも目についたからだったのだろうけれど、声をかけられて以来。どうなったのかを話さないといけないと考えたわけではない。興味はないだろうこともわかっていたからだ。  だから、そういうタイミングだったのだと思う。いろいろと自分に内側に溜まっていて、怖いもの知らずだったタイミング。 「……なんで、引っ掻き回そうとするんですかね」  四谷は、水城にばらされることが嫌だったのだと言った。知られたくなかったのだと言った。自分の口から先に告白すればいいだけの話だったことはわかっているけれど、無理だったのだと。

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