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パーフェクト・ワールド・エンド5-8
――実際のところ、逆だけどな。
小さく自嘲する。皓太自身も知らないだろうが、そうだった。あの当時、成瀬の身近に存在したアルファは、両親を除けば、幼馴染みだけだった。成瀬自身の両親のような高慢なアルファではなく、地に足のついた公平な――それでいて、アルファであるのだろうと自然と周囲から思われる空気を纏っていた、年下の少年。
これからを「アルファ」として生きていくために、それらしく振舞うための一番の参考材料だった。持って生まれた自分の性格と似ていたことも幸いして、真似するのは、さして苦痛でもなければ、難しくもなかった。けれど。――だから。
だから、この学園の人間が、「会長」として崇める自分は、紛い物だ。そうあるべきは、自分ではなかった。
――だから、そう言う意味では、向原が、篠原の言うように俺のことを特別視していたとして、それは俺じゃない。
なんで、今更になってこんなことを思うのか、自分でも不思議だった。あと一年もない。その間、ここでアルファの生徒会長としての自分を演じきれば、ひとつの幕が閉じる。
そうすれば、また少し、変わる。そしていつか、ここであったこともすべてを忘れて呑み込んでいける。そうなっていくはずだった。
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