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パーフェクト・ワールド・エンドⅤ 0-7

「……おまえが脅したんだろ」 「脅したって、僕が? 四谷くんを?」  堪えきれずぼそりとこぼれた非難に、きょとりと水城が目を丸くする。幾度も見た覚えのある、こちらの神経を逆なでする仕草。その表情のまま、水城が問いかける。 「四谷くんがなにを言ったのかは知らないけど、僕はそんなことしてないよ。というか、なんで、僕が四谷くんを脅さないといけないの?」  なんで脅したのか、なんて。行人だって考えても理解のできなかったことだった。引っ掻き回して楽しんでいるだけだろうと向原は言っていたけれど。 「なんでしたんだよ」  結局、行人は、なんの答えにもなっていないことを尋ね返した。水城のことは好きではない。はじめてその言動を目の当たりにしたときから理解できないと思った。  オメガであることを隠してベータとしてふつうに生きたいと望む自分とはなにもかもが違っていたから。でも、それだけであれば、べつに、思想の違いというだけで済んだ話だ。嫌いなら関わらなければいい。自分の周囲に入れなければいい。それだけのことのはずなのに、なぜ、水城はいつも全体を巻き込もうとするのだろう。 「だからなにもしてないって言ってるのに。やだなぁ、証拠でもあるの?」 「四谷がそう言ってる。おまえに脅されたって。それで、悩んで、苦しかったって」 「だから、僕もそんなことしてないって言ってるのに」  きょとんとしていた表情を封印した水城が、ひどいなぁ、とくすくすとした笑みを見せる。 「四谷くんが言ったことは信じる、僕の言うことは信じないって、証拠でもなんでもなくて、ただの感情論じゃない」

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