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パーフェクト・ワールド・エンド6-7
「おまえも、おまえの兄貴分が窮地に追い込まれるところなんて見たくないだろう?」
それは最早、立派な脅しだと思うのだが。ここで黙っても説明しても面倒なことになるに違いない。どちらがマシかと言われれば、選択肢は一つしか残っていなかった。自分を責めないだろう幼馴染みに心の中でだけ謝って、皓太は愛想笑いを再度浮かべた。
「いや、その……、あの、あまり大きな声で言いたくない一件のときの話なんですが」
「あぁ、アレか」
「たぶん、それです。そのときに、本尾先輩がいたものですから」
大まかには理解したらしい茅野が、なんとも言えない顔で成瀬を一瞥した。諦めたのか、成瀬は素知らぬ顔で沈黙している。
「俺が言わなくても理解していると思いたいんだがな」
いかにも説教然とした口調に、皓太は苦笑を噛み殺した。この人にこういう苦言を呈せる人を、この学園に来るまでは知らなかった。
――向原さんと篠原さんと、この人くらいだけどな。でも、昔は本当にいなかった。
「あいつと、人目のないところで逢うのは自殺行為だぞ」
「……だから、誰もしないって」
「なら、いいが」
「俺だって、そんな面倒なことしたくないんだよ。そもそも、あいつが本当に構って欲しいのは――いや、なんでもない」
その声が、自分を気にして途切れたのだと、すぐに分かった。聞かない方が自分の為にも良いと判断して、ここぞと席を立つ。
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