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パーフェクト・ワールド・エンド7-10

「こいつ、昔からそう言うこと、絶対にやらないから」 「あー……、向原、テストも全部、絶妙に手ぇ抜いてるもんな。上位数パーセントには入るけど、トップは取る気はない、みたいな。そんな感じ?」 「それだ、それ。おまえと違って、目立つのが嫌いなんだよ、向原は」 「俺だって、べつに好きなわけじゃないんだけど」 「成瀬」  まるで助け舟みたいだと思いながら、呼びかける。入学式の朝、同じようなことを思ったと懐かしく感じながら。  ――こいつの場合、自己顕示欲と言うよりかは、母親の呪縛って言った方が正確だろうけどな。 「おまえはやりたいのか、それ」  やる気がなければ、どうとでも回避するだろう。その問いに、成瀬は想像していたよりはずっと素直に頷いた。 「そうだな。積極的にやりたいわけでもないけど。でも、俺、変えたいんだよね」 「変えたいって、十分、俺らが入学したころに比べたらマシになったと思うぞ、ここは。主におまえと向原が好き勝手にやった所為だけどな」 「でも、まだ、ここはアルファ優位の世界だろ。ベータでも、どんな生徒でも、ここに居る間くらい、安心できるような環境になれば良いと思う」  それはまた、ひどく幼い理想論だった。それなのに、篠原がそれ以上の難色を示さなかったのは、成瀬だったらば、できるかもしれないと思ったからなのだろう。  馬鹿みたいな理想を掲げて進んできた一年半を。味方を増やし、学内の空気を変えてきたのは、成瀬だ。

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