318 / 1144
パーフェクト・ワールド・エンド7-10
「こいつ、昔からそう言うこと、絶対にやらないから」
「あー……、向原、テストも全部、絶妙に手ぇ抜いてるもんな。上位数パーセントには入るけど、トップは取る気はない、みたいな。そんな感じ?」
「それだ、それ。おまえと違って、目立つのが嫌いなんだよ、向原は」
「俺だって、べつに好きなわけじゃないんだけど」
「成瀬」
まるで助け舟みたいだと思いながら、呼びかける。入学式の朝、同じようなことを思ったと懐かしく感じながら。
――こいつの場合、自己顕示欲と言うよりかは、母親の呪縛って言った方が正確だろうけどな。
「おまえはやりたいのか、それ」
やる気がなければ、どうとでも回避するだろう。その問いに、成瀬は想像していたよりはずっと素直に頷いた。
「そうだな。積極的にやりたいわけでもないけど。でも、俺、変えたいんだよね」
「変えたいって、十分、俺らが入学したころに比べたらマシになったと思うぞ、ここは。主におまえと向原が好き勝手にやった所為だけどな」
「でも、まだ、ここはアルファ優位の世界だろ。ベータでも、どんな生徒でも、ここに居る間くらい、安心できるような環境になれば良いと思う」
それはまた、ひどく幼い理想論だった。それなのに、篠原がそれ以上の難色を示さなかったのは、成瀬だったらば、できるかもしれないと思ったからなのだろう。
馬鹿みたいな理想を掲げて進んできた一年半を。味方を増やし、学内の空気を変えてきたのは、成瀬だ。
ともだちにシェアしよう!

