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パーフェクト・ワールド・エンド8-1
[8]
「このポスター」
移動教室に向かう廊下で、四谷の足が不意に止まった。視線の先にあるのは、掲示板だ。生徒会の補欠選挙の立候補者のそれ。
「四谷?」
岡の声に、はっとしたように四谷が視線を外した。そして茶化すようにして笑う。
「やっぱり格好良いなと思って」
「おーい、四谷。それ、もう人のものだから、諦めなって」
「分かってるよ、分かってるけど、良いでしょ。口にするくらい」
拗ねたように笑ってみせて、行人に話題を振る。
「でも、大変なんじゃないの。高藤は選挙で忙しいし。榛名も副フロア長やるんでしょ」
「いや、……荻原が基本的にはやってくれるから。俺はそんなに」
「まぁ、あいつは榛名なこと気に入ってるからね。それは甘やかしてくれるでしょ。慣れるまでは甘えてたら良いんじゃない」
嫌味なのかなんなのか。判別の付かないことを四谷が言うのはいつものことだ。昔は嫌味だとばかり思っていたが、今年になってからそうとも限らないことを知った。
今日のこれに限って言えば、俺に気を使っていることは間違いがない。罪悪感を抱えたまま、行人は曖昧に頷いた。
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