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パーフェクト・ワールド・エンド8-11
誰も。アルファも、オメガも、ベータも、誰も。それは、この学園に入ってすぐに見た夢だ。
「俺が、そうした」
けれど、それに甘えても良いのだろうか。行人は確かに思った。水城が入って来たとき。オメガだと公言して見せたとき。なんでおまえがここに来たのだと。かき乱すなと。そう思った。
けれど。けれど、それは自分にそのまま返って来る毒だった。自分は、今、この学園をかき乱している。
「行人がいなくなったら、皓太が泣く。だから、いなくなったら困るな」
「泣かないでしょ」
無理やり笑ったような声になった。けれど、想像できない。あの男が泣くはずがない。
「いや、泣くよ。表面上は泣かなかったとしても。きっと泣いてる。だから、俺も困るな。もちろん、俺も寂しくなるし」
沈黙の後、行人と彼が呼んだ。この学園で、この人しかしない呼び方で。
「なんでも一人でやろうとなんてしないで良いんだ。そんなことができる人間はいない」
言い聞かせる調子で声が紡ぐ。
「アルファでも、きっと」
それは誰に言い聞かせていたのだろうと思ったのは、もっと後になってからだった。この夜を、冷静になって思い返したときだった。
「だから頼ったら良い。行人が信じる誰かを」
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