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パーフェクト・ワールド・エンド9-2
「ごめん、大丈夫。さっきまで誰もいなかったから、ちょっと気が抜けてた」
「成瀬さんが?」
「最近、忙しいから。でも、それは皓太もだな。それで、ごめん。何か用事だった?」
「うん。向原さんの引継ぎなんだけどさ。篠原さんがこの辺りは分からないから、成瀬さんに聞けって――って、ちょっと。本当に大丈夫?」
「……大丈夫。立ちくらみ」
立ち上がりかけた瞬間に、危うく世界が回りかけた。さりげなく手をついて誤魔化したつもりだったのだが、意味はなかったらしい。
――居たのが皓太だけで、まだ良かった。
篠原あたりに見られた日には、目も当てられないところだった。不安定さを露呈さえるつもりは更々ない。
――不安定になっているつもりも、ないんだけどな。
「ちゃんと寝てる? 最近、ふらふらしてるでしょ。榛名が気にしてた」
「ふらふらはしてないよ。必要なところに行ってるだけ」
「周りが理解してなかったら、十分に『ふらふら』だからね。それと、俺が言って聞くとも思えないけど、無理しないで」
引継ぐために持ってきただろう書類を、さっと皓太が机上から引いた。
「ここで、祥くんが倒れたりしたら、榛名が泣くから」
つい先日、自分がまさにその少年を諭すために使った台詞と全く同じで。それが少しおかしかった。
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