335 / 1144
パーフェクト・ワールド・エンド9-5
「嘘は言ってない」
「あいつ、おまえに甘いからな」
呆れたように笑う横顔からそっと視線を外して、窓の外に戻す。出逢った当初よりずっと向原は表情も纏う空気も柔らかくなった。
――絶対、仲良くなんてできないって思ったけど。そうでもなかったな。
二年前の自分は信じられないと思っただろうけれど、何を無理しなくても、気が付けば、一緒にいる時間が多くなって、――間違いなく友人と言える関係になった。
「あ……」
視線が、集団から少し外れて歩く一人の少年で止まる。色素の薄い髪が春の風に揺れていた。
「オメガか」
興味のない、ただの事実としての声が響く。
「今年もいるんだな。あいつ、ウチの寮だろ」
「そんなに見たら一発で分かるものなの」
思わずそう言ってしまったが、向原は分かるのだろうことは、自分が一番良く知っている。だから、八つ当たりに近い。それも理解しているからか、向原は小さく肩を竦めただけだった。
「確か、あの子……」
「なに」
「皓太と同じ部屋だった気がする。そうだ。榛名くんだ。榛名行人くん」
「良くフルネームで覚えてるな、名前」
ともだちにシェアしよう!

