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パーフェクト・ワールド・エンド9-5

「嘘は言ってない」 「あいつ、おまえに甘いからな」  呆れたように笑う横顔からそっと視線を外して、窓の外に戻す。出逢った当初よりずっと向原は表情も纏う空気も柔らかくなった。  ――絶対、仲良くなんてできないって思ったけど。そうでもなかったな。  二年前の自分は信じられないと思っただろうけれど、何を無理しなくても、気が付けば、一緒にいる時間が多くなって、――間違いなく友人と言える関係になった。 「あ……」  視線が、集団から少し外れて歩く一人の少年で止まる。色素の薄い髪が春の風に揺れていた。 「オメガか」  興味のない、ただの事実としての声が響く。 「今年もいるんだな。あいつ、ウチの寮だろ」 「そんなに見たら一発で分かるものなの」  思わずそう言ってしまったが、向原は分かるのだろうことは、自分が一番良く知っている。だから、八つ当たりに近い。それも理解しているからか、向原は小さく肩を竦めただけだった。 「確か、あの子……」 「なに」 「皓太と同じ部屋だった気がする。そうだ。榛名くんだ。榛名行人くん」 「良くフルネームで覚えてるな、名前」

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