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パーフェクト・ワールド・エンド9-9
「向原も」
「なに?」
「そう思うか」
馬鹿なことを聞いたと思ったのは、本当に一瞬だったけれど、驚いたようにその瞳が瞬いたからだった。とは言っても、自分だったから気が付いた、と言うレベルの変化だっただろうが。その顔に、すぐに小さな笑みが浮かぶ。
「珍しいこと言うんだな」
「べつに」
揶揄う調子に、声のトーンがぶれる。まるで拗ねているみたいに。
「俺だって、そう思うときくらいある」
いつだって自分が正しいだなんて、さすがに思っていない。こうありたいと望んだ絵のために道を切り開いてきたけれど。それは自分が、自分のオメガ性に卑屈になっていたがために望んだことではないだろうか。そう思うときがある。この学園に通う大多数の人間の幸福とはかけ離れているのではないだろうか、と。
「正しい、正しくないなんて、結局、全部、それを口にする人間の主観だ」
「……そうかもしれないけど」
「言っただろ」
宥めるように苦笑する。その声が、どれだけ自分の背を押してきたか、きっと向原は知らないのだろう。
「おまえがしたいなら手伝ってやるって」
「うん、聞いた」
「だから、安心しろ」
なんで、自分が欲しい言葉ばかりをくれるのだろう。嬉しいと思うと同時に、怖いと思う。このままこのぬくもりに慣れ切ってしまえば、いつか一人で立てなくなってしまうかもしれない。そんなことが許されるはずがないのに。
「なぁ」
何故、その言葉が零れたのかは、成瀬にもよく分からなかった。甘えていたのかもしれない。
「なんで、そんなこと言ってくれるの」
自分は、どんな答えを期待していたのだろう。向原は何も言わなかった。
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