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パーフェクト・ワールド・エンド10-1
[10]
二度も言わせてしまった。
そう気が付いたのは、生徒会室を出て、櫻寮に戻ってからだった。
仲直りしたらどうかな、なんて。子どもの特権をフル活用した物言いで提案したこと自体が、二回目だったのだ。一回目は、生徒会の補選のことを持ち出された折の、寮の食堂。
――忘れてた。と言うか、俺も許容範囲を超えそうになってたんだな。
そのことに思い至れたのは不幸中の幸いだったかもしれない。少なくとも、あの表向きは強気な割に繊細な同室者に無神経を向けずに済んだ。
――と言っても、だからって、祥くんには何を言っても良いってわけじゃないけど。
喧嘩してるわけじゃない。そう口にしたとき、笑ったつもりだったのだろう。けれど、できていなかった。これは重症だなと改めて思い知った。
昔から良くも悪くも完璧な鉄仮面を身に付けている人のそれが、外れかけている。
――だから言ったのに。仲直りしろって。
どうにもならないことだと分かっていながら、思わざるを得なかった。半分以上、八つ当たりの様相だったけれど。自分にとって、常に完璧な兄のようであった人の殻が崩れようとしているのは、どうにも落ち着かない。言葉にするなら、「怖い」と言うそれが一番近いのかもしれない。
――でも、本当に、だからって、俺が出来るようなことなんてないしな。
溜息交じりにそう結論付ける。分かっている。成瀬にとって、自分はいくつになろうとも可愛い弟なのだ。だから、弱いところなんて死んでも見せない。そう言う人だ。
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