368 / 1144

パーフェクト・ワールド・エンド12-1

[12]  たとえば、自分がオメガではなかったら。そんな取り留めもない「たられば」を夢想して喜んでいたのは、本当に幼かった頃の話だ。成長するにつれ、それがどんなに意味のないことなのかを自ずと悟る。  アルファにすり寄って、守られる人生を選ばないのなら、残された道は「ベータ」として集団に埋没しながら地を這って生きていくしかないのだ。  それが、オメガに生まれた自分の宿命だと思っていた。だから、驚いたのだ。本当に、驚いたのだ。  すごいと思って、……羨ましいとも確かに思って、そして、彼が今まで人知れず片付けてきたのだろうすべてを、恐ろしいとすら思った。  ――俺には、誰かを頼ったら良いと、言ったくせに。  自分は、きっと、それをしない。そして、現実的に、ひとりで何でもこなしてしまう。  それが問題なのだと改めて思ったのは、四谷の言葉を聞いた折で、確信したのは、余裕のなくなっている高藤を見た時だった。  高藤でこの状態だと言うことは、あの人の抱えている負荷はどれだけのものなのだろう、と。  ――でも、本当に、あんなことを言っても良かったんだろうか。  高藤のことは信用している。他の誰にも言わないだろうと分かっている。成瀬も行人の判断を責めないだろうと思う。  ――でも。  一人の寮室で、行人は机に突っ伏した。開けている問題集は、今日中にやり切るつもりだった分量どころか、一問も解けていないままだ。 「向原先輩も、知ってた、か」

ともだちにシェアしよう!