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パーフェクト・ワールド・エンドΦ-30
「このまま放って置いたら、面倒なことになるぞ? 叩くなら早めに叩けよ」
沈黙は一瞬だった。普段は穏やかと称される瞳に好戦的な色が滲む。
「叩くか」
妥当なタイミングだなと思った。これ以上、放っておけば、面倒なことになる。
「なら、最初が肝心だな」
「潰すなら徹底的に、ってか? そういう割には、案外、向原は本尾に……」
言いさして、視線に気が付いたらしい篠原が台詞を変えた。べつに、大目に見ているわけではない。ただ、いつか、あの執着が役に立つことがあるかもしれないと踏んでいるだけだ。
「なんでもない。それで? どうするのか決めてるのか?」
話を振られた成瀬が、今はあまり見せなくなった笑みを浮かべた。頂点に立つ人間の、嫣然としたそれ。
「ここは、俺たちの庭だからな。少なくとも、今は」
だから、ここは自分の支配下なのだと告げるように。この男が、とふと思った。この、頂点に立つのが当然という、アルファの皮を被った男が、その皮を脱ぐことがあるのなら、それはどんな瞬間なのだろうか、と。
そんな、考えても詮無いことを、ふと思ったのだった。
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