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パーフェクト・ワールド・ハルⅠ-2
「どの階も学年関係なく立ち入りは用事があればオッケー。ただ、むやみに廊下では騒がないように。そういう時は談話室を使えな。あと、五階のことを特別フロアって呼ぶ奴いるけど、ただ単に雑用押し付けられた可哀そうな三年が割り当てられているだけの階だからな。変に遠慮しないで、相談事とかがあれば来いよ」
ざっくらばんとした説明に、そこかしこからまた笑いが起こる。その波が引くのを見計らって、茅野が注意事項を再び読み上げ始めた。
「一応、夜の点呼は十時な。それ以降は基本的に寮室から出ないように。点呼は学年ごとのフロア長がすることになるんだけど。一年のフロア長は後で発表するから。そいつは寮生委員会所属になるので、そこのところだけよろしく」
寮の管理や自治運営について精を出すことになる委員会である。学内での統括トップが生徒会であるとすれば、寮は寮生委員会がそれにあたる。面倒くさいんだよなぁ、結構。中等部で一年時と二年時に経験している皓太はひっそりと溜息を吐いた。指名されないことを願うしかないが、経験者が指名されやすいことは予想に易い。
「それから、寮内不純同性交友は禁止だからなー。可愛い同級生、綺麗な先輩。気になったとしても、淡い綺麗な片思いで終わらせるように。こじらせるなよー、ろくなことにならないからな」
茅野は笑っているが、悲しいかな、陵の学園寮では、可愛らしい顔立ちの生徒が性欲処理目的に襲われる事案が、未遂も含めれば複数回、毎年発生しているのだ。抑止目的で、可愛らしい顔立ちのベータの同室者は、品行方正で能力の高いアルファが選ばれることが多いが、凶と出る場合もあるので、何とも言い難い。
「卒業してからくっつく分には止めはしないので、要するに節度を守って要領良く。そしてお互いの合意を得た上で、寮の外で楽しんでください」
そこで茅野は一年生をぐるりと見まわすと、ずいと指を突き出した。
「ちなみにうちの寮でそう言うことをすると、寮長である俺は勿論、会長からも鉄拳制裁が下るので気を付けるように」
新入生の中に生まれた小さなさざめきに、真面目な顔で頷いてみせて茅野が続けた。
「去年も、二人ほど制裁が下ってます。特に、向原副会長にやられた奴は、退寮処分になってますので、よくよく気を付けるように」
顔を見合わせている同級生たちに、いやいや、と皓太は内心だけで突っ込んだ。手を出さなければ良いだけである。皓太自身はアルファであるし、女としか出来ないとは思っていない。だがしかし、それと寮内で誰かとどうのこうのと言うのは、別の話だろう。
「と言っても、悪いことをしなければ、向原は何もしないからなー、どこぞの風紀と違って。むやみやたらに怖がる必要はないからな」
当たり障りないフォローを残して、茅野がページを繰る。
「寮での生活は、基本的に俺たち寮長から成る寮生委員会の管轄になります。学内での生活とは自治組織が違う、独立しているわけだな。名目上は。つまりここでのトップは俺なので! 俺に従うように」
また高笑いをしそうな茅野の背を、無言で柏木が抓ったのが見えた。暴れ馬の手綱を握る良妻のごとき姿に、拍手を送りたくなった。相変わらず見事な夫婦漫才だ。
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