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パーフェクト・ワールド・ハルⅠ-3

「その寮生委員会ですが、寮長、副寮長、の他、フロアごとにフロア長、副フロア長がいます。なので、一年も一年生のフロア長、副長を選出しなければならないのですが」 「推薦だの立候補だのを募るのは面倒臭いので、寮長権限で俺が決定しました。こら、横暴言うな。適材適所で決めたので、文句なし。はい、と言うわけで、一年、フロア長、高藤な。おまえ、中等部の時もしてたろ」  ばちりと合った目に嫌な予感はしてはいたが、大当たりである。 「そう露骨に嫌そうな顔すんなよ、高藤。おまえを生徒会に引っこ抜きたいってごねた会長様と真剣勝負して俺が勝ったんだからな」  果たして、どちらがマシだっただろうか。頭の中で両方の未来を想像してみたが、似たり寄ったりだとの結論に、皓太は自分自身で辿り着いた。面倒くさいことに、変わりはない。 「それともおまえ、金バッジ欲しかった?」  高等部の生徒会役員だけが制服に着けるそれは、この学園の権力の象徴だ。ぶんぶんと頭を振って、皓太は手を上げた。 「櫻の勲章で良いです。と言うか、勝負って」  寮ごとに決まっているエンブレムを彫られたバッジが、寮生委員会所属の証だ。出来ることならば、何のピンバッジも要らなかったのだが。  話を逸らした皓太に、茅野が胸を張った。 「じゃんけんだ。じゃんけん。男らしく一発勝負」  じゃんけん。予想の斜め上を行くのどかさに周囲が沸く。ならなんだ。二分の一の確率で俺は、俺の意思はお構いなしにクソ忙しい生徒会の所属になっていたのかもしれないのか。隣から感じる恨めしそうな視線の犯人は、確認するまでもなく榛名だが、代われるものなら代わるぞと言いたい。無論、榛名がなりたがっているのは生徒会役員一択だと知っているが。 「会長、じゃんけん弱いからなー。もしみんな会長に頼みたいことができたら、じゃんけんで攻めてみろ」  調子の良いことを笑って口にして茅野だったが、全体を見回して少しだけトーンを落とした。 「と言うか、だ。集団生活を送っていると、四六時中一緒になるだろう。下手してクラスも一緒になってみろ、そうなったら本当に朝から晩までだからな。仲良しこよしが出来なくなることもあると思う」  寮内規則の中でもかなり上位にあるのが、「喧嘩禁止」だ。とは言え、思春期の野郎が一つの箱に押し込められるのだ。中等部だった時代も、仲裁に苦労した覚えがあるが、今年もその役割を課せられてしまった。願わくは、血の気の多い連中が少ないことを、だ。そっと周囲に視線を走らせたが、分かっていますと言わんばかりの顔だらけで。  ――その顔が一ヵ月持てば良いけどなぁ。特に、外部生。  慣れていなければ慣れていないほど、フラストレーションがうなぎ上りになるだろうことは想像に難くない。そしてその矛先が向かうのは、往々にして気の弱そうなベータだ。 「話し合って解決することは、とことん話せば良いけど、お互い苛々しているから起こったような揉め事なら、最終的にじゃんけん勝負って言うのも平和で良いぞ。男なんだから、ネチネチ陰湿ないじめに発展させるなよ」  緩い語感でしめて、茅野が手を打った。

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