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パーフェクト・ワールド・ハルⅠ-4

「と言うわけで、ネチネチごねるなよ。副フロア長は、萩原な。おまえも中等部の時にやってたよな」  流れ弾のように指名された萩原が短い悲鳴を上げていたが、皓太は判明した道連れに心底ほっとした。中等部時代、寮は違ったが寮生委員会で一緒だったのでよく知っている。 「よし、じゃあ、これで最後なー。知っている奴も多いとは思うが、高等部は、我が櫻寮の他に、楓、柊、葵、と四つの寮がある。そして来月、寮同士の結束を競う、みささぎ祭があります」  騒めき出した一年に向かって、もう一度軽く手を打ち鳴らして、茅野が皓太と萩原とを見た。 「詳しい説明はまた後日。気になるやつは、この後の歓迎会で二年や三年に先に訊いてみても良いぞ。高藤と萩原は悪いけど、その前にミーティングな。主催は生徒会じゃなく寮生委員会だから、忙しくなると思うけどよろしくな。勿論、それ以外のやつも協力頼んだら力貸してくれ。部活動があるやつはそっちを優先しても構わないが、出来る限り寮の方も頼むな」  茅野と柏木が質問がないかを見渡して、頷き合う。 「歓迎会は六時からだからなー。場所はここ。まだ二時間くらいあるから部屋の片づけするも良し、ここに残って準備を手伝うも良し。好きにしろ」 「今年も大変そうだなぁ、おまえ」  みささぎ祭への興味に湧く一年生の中で、隣に座っていた榛名だけが、お義理のように慰めてくれた。 「そう思うなら代わってくれても全然良いよ、マジで」 「生徒会なら喜んで代わったけど、櫻はやだ。だって、成瀬さんと一緒に仕事できなくなるもん」  本当におまえの判断基準は成瀬さん一択だなとイラッと来たが、黙殺した。自分がフロア長を任される一番の理由は、榛名曰くの「ちょっとやそっとじゃ怒らない気の長さ」なのだろうが。表に出すのはいかがなものかと思っているから心の内に留めているだけで、何も思っていないわけではない。  そんな皓太の心中を知るはずもない榛名は、早く部屋に戻りたそうに足をぶらつかせている。 「あ、そう、そう。優勝した寮には、寮の予算の色付けと公共施設の優先権が付いてくるからな」  食堂を出る前に、思い出したようにかけられた茅野の台詞に、皓太たちのいるテーブルで交わされる声々もさらに更に華やぎ出した。楽しそうで何よりだが、寮生委員会所属になってしまった以上、それだけでは皓太は済まない。 「まぁ、大変だなって思うなら、もめ事起こすなよ、前科犯」  近づいてくる萩原を視認して皓太も席を立つ。離れ際、ぼそりと零してやったのは腹いせではあったが、牽制でもある。見た目だけは可愛い同室者は、ナリに反して問題児だ。煩いと騒ぐ榛名を放置して食堂を出ると、入口のどころで荻原が苦笑いで待ち構えていた。 「当たり引いちゃったね、お互い」 「中等部で当たった時点で、その後を決められてる感あるよな、これ」 「確かに。癖のある子が少ないと良いけど。どうだろうね」  愚痴のように続いたそれに、本当に、と心の底から頷いて、歩く速度を上げた。階段のところで茅野と柏木が五階の会議室だからな、と身振りで伝えているのが見えたからだ。  ――みささぎ祭までは下手したら、寮の部屋より五階にいることの方が多いかも。  諦め半分で、皓太は口を開いた。 「まぁ。たぶん、楓よりマシだって」  きっと今頃、てんやわんやなのではないだろうか。あの主席入学者のおかげで。 「かもね」と、荻原が楓寮のあるだろう方向に視線を飛ばした。 「でも、管理する側じゃなかったら羨ましいかも。あんな可愛いオメガと一緒なんだよ。なんと言うか、ちょっとときめかない?」  正直、俺はごめんだけど。学園の内側でまでアルファだオメガだ、なんて言うのは。本音は呑み込んで、皓太は曖昧に頷いた。

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