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パーフェクト・ワールド・ハルⅠ-7

「戻って来てたのか、お疲れ。今日も華麗な猫被りだったな」 「うるせぇよ」  半ば埋もれるようにソファにもたれ込んでいた影から、ゆっくりと顔が上がる。普段あまり見慣れない不機嫌そうだったそれが、茅野の後ろにいた皓太を見止めて、柔らかいものに変わる。 「あ、皓太だ」 「おい。成瀬。その俺と高藤への態度の差はなんなんだ」 「だって、おまえ可愛くないもん。皓太は可愛いけど。そうだ、どうだった? 皓太。入学式」  ぎょっとした荻原からの視線を受けて、皓太は溜息を押し殺した。構われるのが嫌なわけではない。それは事実なのだが、時と場合を考慮して態度を変えてもらいたい。榛名が聞けば地団太を踏みかねないことを願いながら、皓太はぎこちなく笑みを作った。 「成瀬、さん」  その呼びかけに、成瀬が物憂げに視線を落とした。狙ってやっているとは思いたくないが、確実に、こちらの罪悪感を刺してくる感はある。 「小さい頃は、祥くん、祥くんって呼んでくれてたのに。皓太が年々冷たくなる」 「そんなこと言われても……」  この学園の会長信者にやっかまれる沼に、何も自分から浸かりたくはない。皓太の思惑を少なくとも成瀬よりは分かってくれているらしい茅野が呆れたように肩を竦める。 「だから、いい加減、弟離れしろって向原にも言われてんだろ。諦めろ、成瀬」 「やだ。数少ない俺のこの学園の癒しなのに。――そういや、おまえ、散々、歓迎説明会で俺のことディスってたって聞いたんだけど」 「くそ、柏木か。なんであいつは毎回おまえにチクるんだ」 「おまえに言っても聞かないと思ってるからじゃないのか。あー……」  思い切り溜息を吐いて顔を覆った成瀬に、茅野が意外そうな声を上げた。 「なんだ。どうした。会長。深い溜息吐いて」 「疲れた」 「珍しいな。おまえがそんなにはっきりと」 「楓寮の揉め事にうっかり巻き込まれかけた。どうにかしてくれ、寮生委員会会長」 「あー……、アレか。でも、アレはお気の毒としか言いようがないだろう、実際。ウチじゃなくて良かったよ」  ぽりぽりと頭を掻いている茅野と成瀬とを一年二人で見比べていると、成瀬が顔を上げた。そして困ったように小さく笑む。 「ほら。入学式の式辞、……何と言うか。ちょっと問題になってて」 「あー、……やっぱ、そうなんですか」 「おい、成瀬」 「この二人も寮の管理する側なんだから知ってて損はないだろ」 「まぁ、それはそうだが」  学年が同じな分、俺たちより大変かもしれないな、と。茅野から哀れむ意見を告げられて、皓太は荻原と顔を見合わせた。それは考えたくない未来だが、有り得る未来だ。

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