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第3話

「でもさあ、あんな手錠で大丈夫なの? 霧島なら壊しかねないよ」 「たしかに玩具の手錠だけど、後ろで縛れば力も出ねえだろ。アイツだって所詮人間だぜ」  霧島がここまでの経緯について思い出しているうちに、いつの間にか中井と伴は霧島のもとへ近づいていたらしい。  酒臭い中井の吐息とやや汗をかいた伴の匂いが鼻先をくすぐる。くしゃみが出そうになったが、雰囲気をしらけさせてはもったいないと思い、鼻の疼きを遥か遠く彼方まで忘れ去ることにする。 「先やれよ、中井。早く触りたいんだろ?」 「うっせーよ。お前に言われなくとも――」  目を閉ざされていても、中井が霧島の前へしゃがみこみ、ひとつずつシャツのボタンを外しだしたのだとわかる。ぶるぶると震えて外しにくいのか、中井の所作は遅かった。いまになってアルコールが効いてきたのかもしれない。 「霧島……」  中井の手によって、霧島の上半身は肌蹴られた。霧島の肉体は一見細身だが、綺麗に筋肉がついた美しい肢体でもある。とくにスポーツをやっていたわけでもないが、霧島は昔からこんな体型だった。 「霧島……俺、乳首舐めたい……ダメ?」  駄目も何も、いまの霧島に中井を止める術はない。それに舐められたところで、結果は目に見えている。それを知ってか知らずか、伴が中井を嘲笑う。 「無駄なことは止めとけ。どうせそいつは勃たねえよ。上も下もな」 「うるさい! やってみないとわからないだろ!」  中井と伴が口喧嘩を始める。そういえば伴はどこにいるのだろう。霧島は伴の立ち位置を正確に掴みきれなかった。 「――つーか、起きてるんだろ、霧島?」 「え」 「……別に隠していたわけじゃないさ」  霧島はようやく言葉を発する。少し喉がざらついた。 「ねーねー伴さあ。もう霧島起きてんなら、目隠し外していい? 俺、早く霧島にキスしたい!」 「ちっ、好きにすればいいだろ」  なぜそこで舌打ちをする。だが霧島はその舌打ちの方角から、伴の位置を掴んだ。それは真後ろである。背中に意識をやると、たしかに何か温かいような気配を感じた。 「霧島、取るよ? 眩しかもしれないから、目つむってて」  霧島は中井の言う通りにした。それが正しいと思ったからだ。  しばらくすると両目を覆っていた何かが取り払われ、ずいぶんと楽になる。だが中井が忠告したよりも眼球に刺さる光量は少なく、これならばすぐにでも目蓋を開けられると思った。 「霧島? 眩しくない? 大丈夫?」 「んなに心配なら、最初から目隠ししなきゃよかっただろうが」 「目隠しさせたかったんだよ! それくらい察しろ」 「へえ、お前そういうの趣味なの。知らなかった。今度試してやろうか?」 「アンタには抱かれたくないね」 「――で? お前たちはこれから俺をどうしたいんだ?」  霧島はゆっくりと目蓋を持ち上げ、辺りを見渡す。  まず足元には両手で(しな)を作った中井が見える。それから自分の両足――これらは拘束されていなくて自由だ。肩越しに振り返ると予想通り伴が立っている。その目は霧島じゃなくて中井を見ているようだ。  どうして俺を見ない、とも思ったが、その仕返しは後のお楽しみに取っておこうと考えた。

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