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それぞれの家族
カラン、カラン
ドアを開けると、店内は、甘い匂いと、焼きたてのパンの香ばしい香りに包まれていた。
「おかえり、ナオ。昨日は、ごめんね、迎えに行けなくて」
「大丈夫。海斗が来てくれたから」
僕なんかの為に、店をわざわざ定休日にするわけにはいかない。
海斗と、一樹さんと、喫茶スペースにあるソファーに、並んで腰を下ろすと、おばさんが、飲み物を運んでくれた。
「僕がやるのに」
「いいのよ。今日一日くらい、ゆっくりしてなさい」
そう言うと、一樹さんの方に視線を向けた。
「今更、槙さんに言うべき事ではないけれど、ナオは、ナオです。もし、少しでも、早織さんの身代わりと考えているなら、今すぐ、別れて下さい」
「皆木さん⁉」
「海斗は、ずっと、ナオが好きで。小さい頃から、お嫁さんにする、そう言ってきたんです。だから、二人が、まぁ、そういう関係になっても仕方ないのかな、そう割り切っていたけど、まさか、貴方とも」
おばさんは、全て、お見通しだった。
「早織は、離婚届を置いて、家を出ていきました。もう、夫婦ではありません。彼女への愛情も、未練も一切ありません。槙家で、早織の面倒をみるのは、元嫁というのもありますが、あくまで、恋人になってくれたナオの姉としてです」
「信じていいのかしら⁉」
おばさんと、一樹さんが、暫くの間、目を合わせていた。お互い、視線を外さず、何を話す訳でもなく。
海斗も、神妙な面持ちだった。
張り詰める重い空気。
「まぁ、いいんじゃないか、わしらがとやかく言うことではないよ。三人で、話し合って決め事だ。息子が、もう一人増えたと思えばいいだろう、なぁ、母さん」
沈黙を破ったのは、おじさんだった。
「槙さん、海斗と、ナオの事、宜しくお願いします」
深々と頭を下げてくれた。
「いや、皆木さん」
一樹さんも、慌てて、立ち上がって、頭を下げた。
「絶対、二人を幸せにします」
「海斗は、まだ、子供で、手が掛かると思いますが、ナオと面倒を見てやってください」
おじさんの言葉に、海斗が、ぶすっと、ふてくされる。
「親父、何、それ⁉」
「何じゃない、お前みたいな、甘ったれに、大事なナオを嫁になんかやれん」
「大事って・・・俺は⁉」
「お前は二の次」
「はぁ!?」
普段、口数の少ないおじさんが、そんな風に僕を思っていてくれたなんて・・・。おばさんも、僕の事を大切に思ってくれていた。
「おじさん、おばさんありがとう。僕が、こうしていれるのは、二人のお陰です。海斗の事、一樹さんの事、黙っていて、ごめんなさい」
立ち上がって、二人に頭を下げた。
「ナオ、今度は、貴方が、幸せになる番」
「おばさん」
「頑張るのよ」
うん、と頷くと、急に涙が溢れてきた。
「やぁね、私まで、泣きたくなるじゃない」
いつの間にか、おばさんの目にも涙が溢れてて・・・。
ぎゅっと、抱き締められた。
そう、あの時と同じように。
ーーおばさん、本当に、本当に、ありがとう
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