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それぞれの家族
その日の夕方。
三人で、一樹さんのお父さんのお見舞いに、郊外の高台に立地する医科大の付属病院を訪ねた。
「一樹さんのお父さんって、どんな方⁉」
「昔は、気性が激しくて、些細な事でも、怒鳴り散らしていたんだ。そのくせ、女性には紳士的で、かなりモテて、本妻である俺の母はかなり苦労していた」
一樹さんに何か、悪いこと聞いちゃったかな⁉
ごめんね。
「まぁ、今は、年のせいもあって、大分、丸くなったかな⁉」
いつもの優しい笑顔をみせてくれ、内心、ほっとした。
良かった。
一樹さんのお父さんは、十階建ての最上階の特別室に入院している。
ドアを開け、
「皆木ナオです、宜しくお願いします!」
何事も最初が肝心。
ちゃんと、ご挨拶しなきゃ。そう思って、元気一杯に挨拶した。
「槙さんは、後ろです」
「へ⁉」
目の前にいたのは、一樹さんと同じ年くらいの、ショートカットのすっごく綺麗な女性。
必死に笑うのを抑えてる。
「ご、ごめんなさい」
謝って、言われた通り後ろを振り返ると、車イスに座った初老の男性がいた。顔立ちが一樹さんに、よく似てる。
「一樹の父の芳樹です」
「あっ、はい。皆木ナオです」
「皆木海斗です」
海斗と共に、頭を下げた。
人懐っこい垂れた目ーーあれ、どっかで会ったような・・・。
気のせいかな⁉
「一樹の妹の、奈緒です」
さっきの女性が挨拶してくれた。
「ナオ⁉あれ、名前一緒⁉」
「字は違うけどね。それにしても、可愛い‼今すぐにでも、私の彼氏になる⁉」
そのままの勢いでハグされそうになり、一樹さんが、自分の方に引っ張った。
「奈緒、ナオは、俺の」
「少しぐらい触らせてよ」
「だめ」
むすっと一樹さんが、妹さんを、睨み付ける。
「お前らは、幾つになっても子供だな」
一樹さんのお父さんの豪快な笑い声が、静かな病棟内に響き渡る。
「ナオ、少し、散歩してこようか⁉」
誘われ、一樹さんと、海斗の顔を見上げた。
「一緒に行こうか⁉」
「なぁ、ナオ⁉」
てっきり、二人も一緒。って、思っていたけど。
「一樹たちは、ここに居てくれ。海斗くんも、申し訳ないが。ナオと、二人きりにして欲しい」
何で⁉って、一樹さん、すごく、不服そうだったけど。海斗は、まぁ、仕方ないかな、そんな感じだった。
車イスを押しながら、病棟中央の、休憩スペースへ。
「何か、飲むか⁉」
「いえ、大丈夫です」
断ったけど、遠慮するな、そう言われて、自動販売機で、飲物を買って貰った。それを手に握り締め、椅子に座ると、ようやく、一樹さんのお父さんが、用件を話し始めた。
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