46 / 73
奥様同士のお付きあい
それから終始和やかなムードで、談笑に花が咲いて、会は無事お開き、と思ったら、
「では、皆さん、場所を変えて、また、お話ししましょう」
と、福光さんが仰って。
「真弓さん、あの・・・今度はどこに⁉」
「向かいのカフェよ」
もうお腹がいっぱいなのに、他の皆さんは、まだ、入るの⁉
すごいなぁ。
なんて、思いながら、ふと、メニー表が目に入って。
「え‼真弓さん」
吃驚して、彼女の服の裾を引っ張った。
「ん⁉」
「ランチ代、こんなに掛かるんですか⁉」
一般庶民の僕には、四千二百円のランチ代が眩暈がするくらい高くて。思わず目を丸くしてしまった。
「まだ、安い方よ」って真弓さん。僕が気を遣わず出席できるように、このレストランを選んだらしい。皆さん、どれだけのお金持ち何だろう。
想像すら出来ない。
リュックサックの中をごそごそして、財布を取り出そうとしたら、
「ナオさんの分は、予め預かってますよ」
と、福光さんに笑顔で言われた。
「すみません、何も聞いてなくて」
「大丈夫よ。お茶のお代も頂いてあるから、心配しないでね」
何から何まで。
一樹さん、橘内さん、段取ってくれてありがとう。
その後、カフェに移動して、またまた、値段を見て吃驚した。
真弓さんは、そんな僕を見て、お腹を抱えて笑ってた。
「ナオくんって、本当に面白い子ね」
返す言葉が見付からず、俯くしかなかった。
いつも夕方までお喋りを楽しんでから、ようやく解散になるみたい。でも、真弓さんが気を遣ってくれて、途中で帰ることが出来た。
奥様同士のお付きあいが、こんなにも大変だなんて。
一度は断ったものの、真弓さんが運転する車で、家まで送って貰った。
「また、一緒にお茶しようね」
笑顔で手を振って、彼女の車を見送り、階段に足を向けた時、誰かに見られている気がした。回りを見渡しても、誰もいなくて。
気のせいかな⁉そう思って、階段を駆け上がった。
玄関を開けたら、一樹さんの靴が置いてあって、それだけなのに嬉しくて、彼の名前を呼ぶと、寝室から声が返ってきた。
「一樹さん、ただいま」
途中で買い物をしてきた紙袋を手にしたまま、大好きな彼のもとへ向かった。
「おかえり。疲れただろう」
「うん。奥様同士のお付きあいって、大変なんだね。あのね、一樹さん、吉崎真弓さんって知ってる⁉」
「あぁ、さっき、電話で話しをした。ナオが、吃驚してばかりいて、楽しかったって」
一樹さんは、ベットの上に腰を下ろして、何やら難しそうな書類に目を通していた。
「お仕事の邪魔でしょう⁉」
「今は、仕事より、ナオの話しの方が大事。おいで」
書類を枕元に置いて、膝の上をぽんぽんと叩いた。
「たまには、俺に甘えて欲しいな。一応、年上だし」
「なに、それ」
くすくす笑うと、一樹さん、少しむすっとしてた。なんか、可愛いい。
紙袋を下に置いて、一樹さんの膝の上にちょこんと座った。
チュッと、軽く額に口付けをして貰い、頬っぺたに、そして耳にもいっぱい、彼のキスが降ってきた。
「くすぐったいから」
身を捩ると、「さっきの仕返しだよ」一樹さんにっこりと笑ってた。
もう、本当に子供なんだから‼
「また、出掛けないといけないんだ。ナオと、ずっとこうしていたいんだけど、ごめん。帰り遅くなるから、先、寝てていいから」
「うん」
「寂しい思いばかりさせて、ごめんな」
「だって、お仕事だもの」
ぎゅっと、彼のシャツをシワが残るぐらい強く握り締めた。
「一樹さんも、お付き合いとかで、忙しいの、分かってるもの」
「随分、妻らしくなってきたね。嬉しいよ」
「妻って・・・」
「まだ、慣れない⁉」
「うん。だって、槙さんの奥さんって、呼ばれるのも、なんか、恥ずかしくて」
「ナオは、俺と海斗の大事な奥さんだよ。パートナーより、そっちの方が、俺はいいな」
「一樹さん・・・」
すごく嬉しくなって、めいいっぱい背伸びして、彼の頬っぺたにチュッと口付けをした。そしたら、口にして、とねだられた。
「ダメ」
「なんで⁉」
「一樹さんの事だから、エッチな事始まるでしょう‼」
「バレてた⁉ごめんね。ナオ、吃驚した事教えてくれる⁉」
一樹さんに言われなきゃ、うっかり忘れる所だった。ありがとう、思い出させてくれて。
ともだちにシェアしよう!