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見えない影
電話がやっと繋がった。
「一樹さん‼玄関の外に誰かいるの。お願い、助けて‼」
恐怖のあまり、声も、手も、ガタガタと震えていた。
『ナオさん、まずは、落ち着いて』
電話に出たのは、一樹さんではなくて、橘内さんだった。まるで、今起きている事が見えているかのように、冷静そのものだった。
『契約している警備会社に、異常を知らせるアラームが鳴って、今、監視カメラの映像を確認して貰っている所です。一樹さんと、鏡、あと、警察と、警備会社の者がそちらに向かってますので、絶対にドアを開けないように、いいですね⁉』
「は、はい」
『あと、十分程の辛抱です。ゆっくり、大きく息を吸いましょう、そして、静かに吐いて・・・少しは、落ち着きましたか⁉』
「橘内さん、ありがとう」
言う通りに、何回か深呼吸をしてみたら、不思議と、震えが止まった。
橘内さんは、一樹さんや、鏡さんが家に着くまで、ずっと、僕に話し掛けてくれた。
暫くすると、呼び鈴を押す音と、ドンドンと、ドアを叩く音がピタリと止み、代わりに、
「ナオ‼、ナオ‼」
血相を変えた一樹さんが、駆け込んできた。
「ナオ、大丈夫⁉怖かっただろう」
「うん。すごく、怖かった。震えが止まんなくて・・・でも、橘内さんが、ずっと話し掛けてくれたから、ちっとも寂しくなかった」
「それなら良かった」
一樹さんは、安堵のため息を付いて、僕の頭をなでてくれた。
鏡さんが、駆け付けてくれた交番のお巡りさんと、警備会社の対応をしてくれた。
遅れて橘内さんも来てくれて。
なんか、色んな方に迷惑を掛けてしまって、すみません。
「いゃあ、一樹、久しぶり‼」
管轄する警察署の刑事さんと一緒で。これまた、一樹さんの知り合いみたい。
強面の大柄の男性は、川木と名乗った。
「聞いたぞ、再婚したんだって⁉いゃあ~相変わらずモテるな、一樹は‼で、嫁さんは⁉」
キョロキョロと辺りを見渡して、やがて、一樹さんにぴたりと寄り添う僕と目が合った。
「まさか・・・」
目を丸くして、二度見して。
それから、えぇーー‼
って、叫んでいた。まぁ、無理もないか。
今日、会った人、みんな、驚かせて、ごめんなさい。
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