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姉さんが残した傷痕とのぞみ
「貴方が、お母様を亡くして、ちょうど一年後に、早織さんは、未婚のまま赤ちゃんを出産したの。出生届を提出することはなかった。家庭環境が劣悪な中で、次第に、子供の世話をしなくなった早織さんは、ゴミの山に、赤ちゃんを放棄して、恋人と行方知らずに・・・。餓死寸前の所を、清掃会社の社員によって発見された。児童相談所を経て、うちの園で引き取ったの。とても、不思議な縁を感じたわ。名前も分からないその女の赤ちゃんに、『のぞみ』と名付けたの。いつか、真実を知り、叔父である貴方が迎えに来てくれるよう望みを託して・・・」
渡会さんの話しを、僕は、涙を流し、鼻を啜りながら聞いていた。
見せて貰った、のぞみちゃんの写真。姉の面影が色濃く残ってる。
「それが、待ってもいられなくなったんだ。逮捕された早織さんの元カレの後ろに経済界とも黒い付き合いがある暴力団の存在が浮上して。このままいったら、のぞみちゃんも、園も、消されるーー。福光氏と、槙氏、政界の重鎮ともいえる二人には、彼らはなかなか手を出せない。だから、ナオが、一樹の妻と知って、渡会さんをこうして連れてきた」
「あの、一樹さんは、この事は⁉」
「まだ、知らない。鏡や橘内には、伝えてあるから、今日中には伝わるだろう。槙氏には、今朝、事情を説明するため、管轄する警察署から署員を派遣して貰ったが、流石だな、すべて知っていた」
「僕は、どうしたら・・・」
「堂々としてればいい。お前には、一樹や、槙氏、福光氏がついている。これだけの警備態勢を敷くんだ、彼らも、分かったんじゃないか、消す相手を間違えたってな」
川木さんの話しを聞いて、渡会さんに視線を向けた。
姉さんが残した傷痕はまだ癒えてないけど、のぞみちゃんには、何ら罪はないはず。
僕が決めた事だ。
きっと、一樹さんや、海斗、おじさんや、おばさんも分かってくれる。
「僕、のぞみちゃんを引き取ります。自分の娘として育てます」
僕の心は決まった。
渡会さん、それを聞くなり、涙ぐんでしまって・・・。
子供が一人増えるだけ、単純に考えたらそうなんだけどーー。
なんか、嫌な予感がする。
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