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鏡さんのほんとの思い
朝食後、一樹さんは、橘内さんと、慌ただしく、所属する党本部へ向かった。
「食器の片付けが終わったら、事務所に来てください。一緒は嫌だと思いますが、少し、出掛けましょう」
鏡さんが、帰り際に、声を掛けてくれた。
ただでさえ、ご機嫌斜めなのに、断ったら、何されるか分からないから、素直に「はい‼」と返事した。
海斗は、留守番。
夕方の新幹線で蜻蛉返りするみたいで、今のうち、少し、横になるみたい。
「明日、学校サボれないしなぁ・・・」
テーブルに、突っ伏して、ぶつぶつボヤいていたけど、
「ナオ、いってらっしゃい‼」
笑顔で、見送ってくれた。
「ちゃんと、鍵掛けてね。何かあったら、電話ちょうだい」
「分かった。あっ、ナオ」
呼び止められ、振り返ると、
「帰ってきたら、いっぱいハグして欲しいな」
甘えん坊が、もう一人ここにいた。
僕の大好きな、大事な、彼。
「じゃあ、行ってくるね。帰ってきたら、ハグしようね‼」
バイバイして、玄関のドアを閉め、階段を駆け降りた。
「鏡さん・・・」
「行きますか⁉」
事務所の前で、表情ひとつ変えず、腕組みをして待っていてくれた。
後ろに黙ってくっついて、門扉を通過し、外に出ると、黒のセダンタイプの車が横付けされていた。
「どうぞ」
「あっ、は、はい。でも・・・」
躊躇してると、苦笑いされた。
「タクシーの方がいいなら、そうしますけど」
「いいえ、乗ります」
鏡さんは、いちいち突っ掛かってくる。
やっぱり、苦手・・・。
後部座席に乗り込むと、彼も続いて乗ってきた。
「歩いて一五分程の距離なんですが、今は、車の方が安全なので。向こうでも警備員が待機
していますので、決して、一人にならないようにしてください」
「分かりました」
交わした会話はそれだけ。重苦しい空気が、車内を包み込んでいた。
五分くらいで、あっという間に目的地に辿り着いた。
「わぁーーーあ‼すごい‼」
見渡す限り、一面のひまわり畑。黄色の大輪が、太陽の方を一斉に向いて、心地いい風に、ゆらゆらと揺れていた。
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