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守り守られ生きる未来
福光家の一人娘であった奥様。
ご自身を、女王蜂と揶揄された。
若い頃、多くの取り巻きと、美男子にかしずかれ、贅沢三昧、我が儘し放題。自分は何もしなくても、その美男子たちが、働き蜂のように尽くし、爛れた生活を送っていたこと。
誰もが媚びを売り、なんとか取り入ろうとするなか、唯一、自分に興味を示さなかったのが、一央さん。
当時、交際していた女性がいた彼を、働き蜂に命じ、拉致監禁し、無理矢理自分と結婚させたこと。
すぐに子供が授かり、一央さんは、全てを捨てて、父親として、夫として、福光家の為に生きる事を決断したこと。
「その女性は、すでに、主人との子供をお腹に宿していて、未婚のまま、男の子を産みました。それが、今回、報道された隠し子です」
奥様は、気丈にも前をしっかりと見詰めていらっしゃった。気高さと誇りに満ちたそのお顔は、凛としてて、矢継ぎ早に飛び交う記者の質問にも、丁寧に答えていた。
「事情を知った槙一樹さんのお父様である芳樹氏が、その女性と、子供を手元に引き取り、面倒をみて下さいました。女性が病気で急死したのちは、子供を養子に迎え、一樹さんの弟として育てて下さいました。現在、公設秘書として、兄を支え、槙家を支え、年下の兄嫁をとても可愛がっています」
奥様の言葉に、吃驚しながら、橘内さんを見ると、彼は穏やかな笑みを浮かべ、その野暮ったい黒縁の眼鏡を片手で外し、スーツの内ポケットにしまった。
「ナオさん、驚かせてすみません。いずれ話すつもりではいたのですが・・・橘内は、亡き母の苗字。本当の名前は、槙翔 といいます。一樹さん・・・いえ、兄とは、三日違いの弟です」
眼鏡を外した橘内さんは、見れば見るほど一央さんによく似てる。
「ナオさん、行きますか⁉私と、兄で貴方を守りますから、心配無用です」
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