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「……オレ、アンタの事気に入ったっす」
今どき、小学生だってもっとまともに、オシャレな言い方を選ぶと思う。
普通の子供でも、今は結構マセてるし。オレ等みたいに社交場で生の経験を積んで、腹の探り合いをしてきた子供なら、的確に相手をオトす言葉を言ってみせるんだろう。人心掌握なんて、わりと早い段階で身に着けるべき能力だ。
うーん、オレは一応立派に「ご子息様」のはずなんだけど。
でも、オレには後悔してる余裕なんてなかった。情けないけど、はじめて何かに興味を抱いたワケだから、それを伝えるのに精一杯。
男の子との縁を、この場限りにしないために、なりふりなんて構ってられない。
「ははっ、まさか原因はオレの前方不注意だったけど、結果として跳ね飛ばされる羽目になった相手に気に入られるとは思わなかったよ」
そんな、オレの、多分小学生に劣るような言葉に、男の子は言った。でもその表情は穏やかで、どこか楽しんでいるようにも見える。
もしかしたらオレの願望が何割も入っているかもしれないけど、心底からの嫌味って言うよりは、まるでクラスで友達同士がしてる、じゃれあいみたいな。
……言ってみても、いいだろうか。
口の中は情けないけど、凄く渇いていた。どんな社交場で、どんなお偉いさんを相手にするより、その何倍、何十倍も緊張してたと思う。
無意識の内に拳を作って、ぎゅっと握る。自分を鼓舞させるように。
でも、表情は笑顔を作るように頑張った。その成果はあっただろうか。表情筋が慣れない動きに引きつる感覚はしたから、少しだけ手ごたえはある。
あとはクラスメイトが騒いでいる時のを参考に、明るい調子で話すだけ。見下すんじゃなくて。フレンドリーに、明るく。ちょっと冗談めかして言うのがコツかもしれない。
「それは悪かったけど、身長差を考えたら自然っすよ? アンタもいっぱい食べればきっと大きくなるっす」
「…………参考までに聞いといてやるよ。お前はいくつだ。そしてオレを何歳だと思ってる?」
「へ? オレは高2で、アンタは中等部……」
オレはオレなりに、フレンドリーに明るく・バカにはしないで、というのを意識したし、ほとんど初めての“交流”にしては、なかなかの完成度だったと思う。
だけど全部は言わせてもらえなかった。
「オレはお前の1つ上だ、馬鹿!!」
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