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 そんなオレの、少しの後悔と、答えを聞くことへの恐怖を、彼は知ってか知らずか。 「わりと最近までは、そんな事気にしてなかったんじゃねぇの? 恋だの愛だのは鬱陶しい。運命の相手はバカバカしい。結婚なんて、うるさい親族共の口を塞ぐ手段」  オレの言葉に対して、「好きじゃなくても結婚できる」でも「好きな人じゃないと結婚したくない」でもない、どっちとも言えるし、どっちとも言えないような言葉を返した。  というか、彼の言う通り、オレがつい最近まで掲げていた主張だ。同時に今となっては、と言うか、他でもない、彼本人に言われてしまっては、黒歴史と呼べる代物でもある。  でも、彼が本気で、オレの主張が変わったことを指摘しているんじゃないのは明らかだった。非難や軽蔑の色もそこにはない。  だって、彼の綺麗な碧眼には、小さな子供がお気に入りの遊びに興じてる時みたいな、無邪気で、楽しそうな光が宿っているから。  安心した。嬉しかった。  だからオレの方も、もう深刻なのは、おしまいだ。あえて凄く情けない声で、オーバー気味に彼へと取り縋ってみせる。 「そ、それは、アンタに会うまでの話じゃないっすかぁ!! アンタに会ってからオレはアンタ以外考えてない。祝福だって望んでないし、認めてもらいたいとも思ってない。アンタが居れくれれば良い。そりゃあ、明確に結婚って形に憧れたりするほど、乙女チックにはなってないっすけど、でもアンタが居るのに他の女と結婚するのが、耐えられないくらいには純粋っつーか、潔癖っつーか、純情になってんだけど!?」 「はっ。そうなるとオレは疫病神かもしれねぇな? 前のお前なら、世間を小馬鹿にしつつ順風満帆に生き抜いただろうに。整った顔立ち、キレる頭、家柄。十分成功者の器だったぜ?」  うん。それはきっと、間違いなく、オレに与えられていた道だ。  努力することもなく、あの家に生まれた時点で、きっと、半分以上は保証されてた、成功者の道。少なくとも、社会的には。  そして、彼に出会う前のオレなら、当たり前にその道を選んでいた。  でも、今じゃ、そんな道はいらない。元から、凄く欲しかったってワケじゃないけど、それでもその道を歩いていこうとは思っていた。だけど今は、喜んで外れたい。  いらない。  だって、そんなものより、もっと大切なものを知ったから。 「今よりもっとガキの頃から、オレはそうなるんだろうな、って思ってたよ。いつか人の上に立つようにって、必要な知識も叩き込まれるには叩き込まれてたし。だけど今は、そんな道必要ないんすよ。成功者になる事なんて望んでない。だからオレは、そうした未来を簡単に捨てられるっつーか、アンタとの未来を渇望してるんす。そのために必要なら、いくらでも犠牲にするっつーか、そのための代償なら代償とは思わないっつーか。代償さえ幸せっつーか」

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