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第5話
「知っていたよ」
君が私に歪んだ形でも信頼を向けていた事。いけ好かないし絶対に相容れない存在だけれど私も君を信じていたから。
私ならしないけれど、君なら殺さんばかりの勢いで私を捜し出すだろう?ねえ、其の感情が何という名称であるのか君は気付いているのかな。生きる事に不器用な君だもの、認めたくないから別の感情で必死に否定しようとしていたのだろう。
君が其れを自覚して口に出す事で、事態は変革を遂げる。だけれどあの時の君には変革を受け入れるだけの覚悟が出来ていなかったみたいだから。
必死に考えさせたんだ。君が私に辿り着く頃、相反する感情に葛藤して結論を出せるように。
それにしては少し時間が掛かり過ぎたんじゃないかな。私も少しは不安になったよ。思い違いだったのかなって、君の私に対する信頼はその程度だったのかなと。
初めて見た君の顔が其処には在った。邂逅の瞬間から君は私に今迄見た事の無い初めての表情を見せてくれる。
視線が交錯した時の迷い、怯え。声を掛けて佳いのかと躊躇った時の情けない顔。誘い込むように逃げ込めばまんまとその後に着いて来る。君、詐欺とかに気を付けた方が佳いよ、騙され易いから。其れが私の前だけなら佳いのだけどね。
やっと捕まえたと一瞬見せた高揚の表情。それだけならばいつかの時から何度も見ていた獲物を捕まえた表情。だけど直ぐに捕まえた物がただの獲物で無かった事に気付く。現実に戻った顔だ。其の後相手が何か企んでいるのではないかと警戒するのは変わらない表情。
そして――
其処からの葛藤と泣き出しそうな表情は録画機を準備しておくべきだったと後悔しているんだ。音声だけでは伝わらないものもあるからね。
云わされる事に対する恥辱で紅潮する顔。まるでとても恥ずかしい寝小便を母親に怒られている時のような、恥ずかしくて泣き出したいのに必死に堪えている様子、之は……弱みというものなのだろうね。全く忌々しいったらありはしない。
君に出逢わなければ、こんな感情を知る事なんて無かったのに。
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