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皐月(2)
「なぁ、久しぶりにキャッチボールしていかへん?」
翔太が緑地公園のある方角へ視線を巡らせながら、そう言った。
「えー? 俺がピッチャーの球なんか受けれるわけないやん」
「アホ。投球練習しよ言う てるんとちゃう。キャッチボールや。それに翼だって少年野球チーム入ってたやん」
「そんな小学生の頃の話、持ち出されても……」
「ええから、行くで」
まだ言いかける翼の言葉を遮って、翔太はスタスタと公園の方へと足を進めた。
(おいー、俺やるなんて言う てへんでー)
心の中で文句を言いながらも、翼は翔太の広い背中を追いかけて従 いていく。
「翼も、中学で野球部入ると思ってたのにな……」
翔太が、翼が従 いてくるのをチラリと確認して、ポツリと言った言葉に、翼の心臓はドキッと小さく跳ねた。
「俺、野球はそんなに好きってわけじゃないし。小学校の時は、みんながやってたから入ってただけで……。あんなんは遊びのうちの一つやったし」
――お前が入ってたから……とは、口が裂けても言えない。
中学の時は、3年間何かの部活に入らなくてはいけなかった。だけど翼は、あえて野球部には入らずに、1年ごとに違う部活を転々としていた。
ずっと傍にいたいと思う一方で、それが辛いと思う時もあった。だから野球部に入るよりも友人として遠くで応援している方が楽だと思っていた。
「1年の時は、確か演劇部やったな」
「そんな昔の事、よう憶えてんな」
「で、2年はバスケ?」
「アニメが流行ってたからな」
「3年はテニス部やった」
「3年から入ったから、ずっと球拾いで終わったけどな」
「高校入学したら、またテニス部に入ったから、そのまま続けるんやと思ったのに、2年になったら突然退部して、その後は何も入らんかったんよな」
「だって、高校は最初の1年間だけは絶対どこかに入らんとあかんかったから仕方なく入部したけど。2年になったら別にやらんでええやろ?」
「それはそうやけど……でも、勿体ないな。翼は運動神経良くて、なんでも卒なくこなせるのに。足も速くて、盗塁の数、凄かったやん。野球続けてたらよかったのに」
「……俺、上下関係とか苦手なの。先輩に厳しく言われたりするのが嫌やってん。それに野球部なんか入ったら、髪めちゃ短くせなあかんやん。あれ、俺には耐えられへんわー。あはは……」
翼は遠くへ視線を向け、そう言って声高らかに笑う。冗談を言って、自分の気持ちを誤魔化すのが一番だと思っていた。
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