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皐月(3)
緑地公園内には、野球やソフトボールのできるグラウンドがいくつかある。テニスコートや体育館などの他にも、敷地内には図書館や会議室なんかもある。市民のスポーツの振興及びレクレーションの増進を図るという目的で作られた施設だ。
山と海に挟まれたこの街では坂道が多いせいで、中学や小学校のグラウンドはどこも狭い。こういう広いスペースのある施設は貴重で、土日•祝日ともなると、グラウンドもコートも予約でいっぱいになる。
メインのグラウンドでは、リトルリーグのチームユニホームを着た子供達が練習をしていた。
「なぁー、どこでやるん。人も結構多いし。俺、久しぶりやから、ボールどこに飛んでくか分からへんで」
「噴水広場の向こう側に、ちょっとスペースあるやろ」
そう言って、翔太はくいっと顎を上げ、視線で目的地を指した。
その仕草は、翔太の癖のようなもので、幼い頃から変わらない。
「あ、ああ、そうやな」
翼の心臓が、またドキリと跳ねた。顔が熱くなるのを感じて、肩に掛けているカバンを反対の肩に掛け直しながら視線を逸らした。
口に出して言った事はないが、この仕草をする時の翔太の首筋から顎にかけてのラインが昔から好きだったのだ。
子供達が水の中に足を浸けて遊んでいる噴水を横目に通り過ぎると、ドングリの樹木が木陰を作っている小さな原っぱがある。
翼はドングリの木の下に、肩に食い込んでいた重い荷物を降ろした。
「はぁー、重かった」
「何入ってんの?」
「不本意ながら、お勉強道具や」
「勉強? 予備校でも行ってたんか?」
「そうや」と言いながら肩を竦めて、やれやれと両手を上げる翼に、翔太は笑いながらバッグの中から出したグラブを投げて渡す。
「へえ。本格的に受験勉強する気になってんな。えらいえらい」
「いや、今回はゴールデンウィーク期間中のお試しみたいな感じで。本格的には夏休みからやけど。おかんが煩くてさ」
面倒くさそうに応える翼に、翔太は自分もグラブを着け、後ろ向きに後退りながら、軽くボールを投げる。
緩い放物線を描きながら、飛んできたボールを翼は腕を伸ばして受け止めた。
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