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水無月(1)
――――水無月
ゴールデンウイークが終わると直ぐに全統記述模試を受け、それが終わると今度は中間考査。5月病になんてかかる暇もない。
3年になってから、なんだか急き立てられるように慌ただしく日々が過ぎていく。
翔太とはクラスも違うし、放課後は翔太は部活、翼は帰宅部だから、学校ではすれ違うくらいで、あのゴールデンウイークの最終日からずっと喋っていない。
5月の終わり頃から雨の日が増え始め、6月に入るとこの地方もいつの間にか梅雨入りしていた。
「あー、雨降りそう……」
「ホンマや、はよ帰らな。俺、傘持ってきてない」
「俺、持ってきとーよ。ほら、相合傘する?」
「アホか、なんで好き好んで男と相合傘なんか! そんなんするくらいやったら、雨降る前に走って帰るわ」
下校しようと校舎から出た途端、同じクラスで、同じく帰宅部の河村瑛吾 と長谷川健 が、どんより曇った空を見上げて、そんな会話を始めた。
こんな天気でも、グラウンドからは運動部が練習をしている声が聞こえてくる。
「……あ、俺、置き傘、教室に忘れてきた。悪い、先帰っといて」
翼はそう言って踵を返して走って校舎内に戻っていく。
「えー? そんなん! ここで待ってるで!」
後ろから追いかけてくる瑛吾の声に、翼は走りながら振り向いて、手を振った。
「ええって。相合傘嫌なんやろ? 雨降る前に駅まで走りー!」
翼がそう言うと、瑛吾も大きく手を振って応える。
「ほな、また明日なー」
翼はまた上靴に履き替えて、一気に3階へ駆け上った。
教室の机の中から折り畳みの傘を取り出して、また1階まで駆け下りる。
下駄箱の前で、自分の息が上がってることに気がついて、つい笑ってしまった。
「なんで俺、走ってんの」
それにしても運動不足だなと思う。部活を辞めてから、運動を何もしていない。前ならこれくらい走ったくらいじゃ、こんなに息は上がらなかった。
6月の2週目には体育祭がある。一応リレーの選手に選ばれているから、少しくらいは練習した方がいいのかなと考えながら外に出ると、ポツリと冷たいものが頬に落ちてきた
「あ、降ってきた。傘取りに行って良かったな」
翼は、折り畳み傘を広げながら、グラウンドへ続く階段へ向かう。
顔に落ちてくる雨が、さっきよりも大粒になってきた。
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