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水無月(6)
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不安定な天気が続く梅雨の合間をぬった曇天の日、体育祭が開催された。
「体育祭、かったるいなぁ」
開会式の校長の挨拶が長すぎて、翼の後ろに並んでいる瑛吾がブツブツ文句を言ってるのが聞こえてくる。
確かに、高校の体育祭なんて、『取り敢えず行事だから』という感じはする。
だけど、なんとなく一種の高揚感みたいなものが生徒達の間には漂っている。
「ま、今日1日勉強せんでええってのは嬉しいけどな」
と、続いた瑛吾の小さい声に、翼は思わずプッとふき出した。
「それ、いつもは勉強してるみたいな言い方やな」
俯き加減で肩越しに振り向き、コソッと言い返すと、その会話を聞いていた周りの生徒がクスッと小さな笑いを漏らすのが聞こえてきた。
「ちょ、みんな何笑っとぉ! ちゃんと前向いて先生の話聞きぃや」
真面目な顔を作って、そう言った瑛吾に、周りは耐えきれずに、今度こそ笑い声が上がってしまった。
すぐに飛んできた担任に怒られたのは言うまでもない。
——何はともあれ、高校生活最後の体育祭が始まった。
いつ雨が降り出してもおかしくない天候だから、プログラムが滞りなく進むように、体育委員や用具係に当たっている運動部の生徒達は、テキパキと動いている。
野球部も用具係に当たっているから、プログラムが変わる時などに、グラウンド内を忙しく走りまわる翔太の姿が時々見えた。
学校は同じでも、この間のような事でもないと、クラスの違う翔太とは、なかなか話す機会もない。
野球部の練習があるから、子供の頃のようにお互いの家を行き来したり、学校が終わってから一緒に遊ぶなんて事もなくなった。
——高校を卒業したら、今よりももっと会えなくなるんだろうな。
そう思いながら、翼は遠くから翔太の姿を目で追っていた。
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プログラムは順調に進み、昼休みを挟んで午後からの種目がスタートした。
翼が参加する『クラス対抗リレー』は、プログラム最後の種目で、体育祭の花形だ。
——『クラス対抗リレーに出場する選手の皆さんは、入場門に集合して下さい』
と、アナウンスが流れ、翼は体操服のポケットから赤いハチマキを取り出した。
「おっ、翼出番やな」
「う……ん」
「なんや、元気ないな。お前、アンカーやろ? 頑張れよ」
「自信ないー。瑛吾代わりに出てくれへん?」
「何言 うとぉ。翼は走るの速いし、勉強は出来へんけど、体育だけは得意やから選ばれたんやで?」
「悪かったな、アホで」
体育祭の種目は、大抵くじ引きで決まるのだが、翼だけは50メートル走のタイムがクラスで一番だったという理由で決まってしまったのだ
確かに体育の成績だけは無駄に良くて、走るのも好きだ。
「はぁ……ほな行ってくるわ」
「おー! 応援してるからな! 頑張れよ!」
あんまり期待はしないでほしいと、翼は思う。
他のクラスのリレーのメンバーは、大体が運動部で固めている。
たまたまタイムを計った時が速かっただけで、普段から走りこんでいる運動部には敵わない。
(……アンカーなんて、勝てるわけない……)
それに……一緒に走るアンカーの選手の中には、翔太がいる。
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