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水無月(9)

 体育祭が終わり、6月の最終週には期末考査が始まる。 「な、先月中間やったのに、もう期末って、高校生ってテストばっかウンザリやな」  前の席に座っている瑛吾が振り向いてダルそうな声で話しかけてくる。 「ホンマやな。日曜日は模試があるし、土曜日も三年は特別補講とか殆ど強制的やし、休む暇あらへんやんなぁ」  すぐに横からも健が声をかけてきた。 「翼、勉強した?」 「んー、まぁ、とりあえずは……したつもり?」  三年になってから、本当に土日まで試験や補講で潰れる日が増えてきて、いったいどの試験に照準合わせて勉強すればいいのか分からなくなってくる。 「なあ、ところで翼は第一志望はどこなん?」 「そんなん、はっきり決めてへん。受かるとこにしか行けへんねんし」 「やんなぁ。俺なんかこないだの模試の時、志望校書く欄に、第一志望東大って、書いたった」  瑛吾が大袈裟に胸を張り、言った言葉に翼も健も、堪えきれずに大声で笑ってしまう。 「何、ドヤ顔で()うてんねん。で? 判定はどうやったん?」 「アホ、そんな野暮なこと聞くなや」  冗談を言い合って笑っていると、チャイムが鳴って、一限目のテストの試験監の教師が教室が入ってくる。 (あー、もう一回確認しようと思ってたとこ、見るの忘れてたな……)  そう思い出して、翼は溜め息を零し、試験用紙が配られている間、窓の外へ視線を移した。 (ええ天気やなぁ……)  期末考査が終わって、7月に入ったら、高校野球の地方大会が始まる。 (観に行けるんかなぁ……)  一回戦はまだ授業があるから、行けないかもしれない。  だけど二回戦に残っていたら、何があってでも行きたい。  翔太は卒業したら、進路どうするんだろう。と、ふと思う。  成績は優秀だから、進学するんだろうとは思っていたが、はっきりと聞いた事がない。  進学したら、野球続けるかな。  そうしたら、来年もまた、翔太の試合を追いかけて観ることが出来る。 (そう言えば、ソーダアイス奢ってくれるって言うたこと、絶対忘れてるな、あいつ……) 「——始め!」  先生の声と共に、いっせいに答案用紙を表に向ける。  翼も窓の外へ向けていた視線を机の上に戻し、問題用紙を捲る。  さっきまで、騒がしかった教室の中は、シンと静まり返って、シャーペンを走らせる音だけが聞こえてきた。

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