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文月(6)
ヒッティングマーチ、選手への応援コール。
最終回の攻撃とあって、相手チームのスタンドの応援が盛り上がる。
人も疎らな、こちらの応援席からの声援も、あちこちから聞こえてくる。
もしかしたら、久しぶりに二回戦へ勝ち進めるかもしれないという期待。
そしてノーヒットノーラン達成まで、あとアウト3つという、翔太への期待のコール。
この回の相手チームの攻撃は上位打線からだ。
一番バッターが打席に入っただけで、スタンドからの声援がいっそう大きく球場内に響く。
「あぁ……私が緊張するわ……」
咲子が翼の腕を両手でギュっと掴む。
「だ、大丈夫っすよ。翔太ってこういう時、いつも冷静やから……」
翼は、三脚にセットしたカメラから顔を離して、咲子に視線を向けた。
「そ、そうかな。大丈夫かな」
「大丈夫、大丈夫。てか、そんなにギュッてされたら、翔太のカッコええとこシャッター切られへん」
「あっ、そうか! そうやね! ごめんね」
その時、快音と共に、いっそう大きくなった声援が球場内に響いた。その中に悲鳴のような叫び声も混じる。
「きゃーーーーっ!」
咲子も口に手を当てながら立ち上がった。
相手チームの打者が、あわやホームランかと思うような特大ファウルを打ったのだ。
「あぁー! 心臓に悪い」
「ホンマにー!」
何としてでも塁に出たい一番バッターは、その後も食い下がりファウルボールが続き、その度にあちこちで悲鳴が上がった。
一球一球に緊張する応援席を他所に、マウンドの翔太は時々間を取るように、ロジンバッグを小さくポンポンと手の上で跳ねさせる。
そして最後は速球のストレートで一番バッターをねじ伏せた。
相手チームの応援歌は、こちらの声援を掻き消してしまう程大きいけれど、多分翔太には届いているだろう。
『あと二つ! あと二つ!』
それがプレッシャーにならないだろうかと、心配だった。
(でも、アイツ、それでも緊張なんかしないんだろうな)
体育祭のリレーですら緊張してしまう翼と違い、翔太が緊張しているところなんて見たことがない。
二番バッターも初球から振ってきた。だが鈍い音と共に打球は高く上に上がり内野フライ。
難なくサードが捌いたが、観ている方はボールがバットに当たるたびに心臓がバクバクする。
だがそれも、あとアウトひとつで終わる。
翔太が後ろを向き、指を二本立て、ハンドサインを送る。
「ツーアウト!」
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