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文月(14)

 7回表。この回だけで相手チームに4点も入ってしまった。  4対0だ。  応援席には諦めのムードが漂ってしまっている。  それは仕方のない事なのかもしれない。  大きなヒットを打たれていないのに、一気に4点も失ってしまったのだ。  しかもこの雨。  野球部の試合観戦を今までした事のなかった人達にとっては、今日のような天候の中で得点を取られてしまっては、心が折れてしまうのも分かる。 「もう、帰ろうか……」  そんな声がちらほらと聞こえてくる。  犠牲フライで熊男がホームインして、やっとワンアウト。まだ相手チームの攻撃は続いている。  続くバッター二人を三振で討ち取った球はまだまだ鋭く走っていた。翔太の集中力はまだ切れたりしていない。  だけど、長かった7回表がやっと終わり、7回の裏の夢原高校の攻撃は、三者凡退で呆気なく終わってしまう。  7回が終わった時点で、4点差。  高校野球は、7回を終了した時点で、悪天候で試合の続行ができないと判断されると、雨天コールドゲームになってしまう。  雨がさっきよりも激しくなってきているし、まだ選手達がベンチから出てこない。  嫌な予感がする。  このまま試合が終わってしまえば、翔太達の負けが、ここで決定してしまうのだ。 「あれ? どうしたんかな」  前の席の女生徒が指をさした。  球場スタッフが、ホームとマウンドを中心に、内野グラウンドにビニールのシートを敷く準備を始めている。  その時、球場にアナウンスの声が響き渡った。  ――ごらんのように雨が激しく降ってまいりましたので、試合を一時中断いたしております。ご了承くださいませ。  今日の天気予報は、曇り時々雨だった。  だけど、駅を降りてからここに着くまでの間に、雨はもうポツポツと降り始めて、それから段々強くなってきて、止むこともなくずっと振り続けていた。  アナウンスを聞いて、本格的に帰り支度を始める人の姿が増え始めた。 「どうするー?」 「柏木くんは見たいけどなぁ」 「もう、4点も取られたし、試合結果は見えてるもんな」 「雨もやみそうにないし」  前に座っている女生徒達も、帰る相談を始めている。 (雨、あがってくれれば、ええんやけどなぁ)  翼は恨めしそうに、どんよりと重たい雲が立ち込める空を見上げて溜め息を零した。

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