29 / 198
文月(14)
7回表。この回だけで相手チームに4点も入ってしまった。
4対0だ。
応援席には諦めのムードが漂ってしまっている。
それは仕方のない事なのかもしれない。
大きなヒットを打たれていないのに、一気に4点も失ってしまったのだ。
しかもこの雨。
野球部の試合観戦を今までした事のなかった人達にとっては、今日のような天候の中で得点を取られてしまっては、心が折れてしまうのも分かる。
「もう、帰ろうか……」
そんな声がちらほらと聞こえてくる。
犠牲フライで熊男がホームインして、やっとワンアウト。まだ相手チームの攻撃は続いている。
続くバッター二人を三振で討ち取った球はまだまだ鋭く走っていた。翔太の集中力はまだ切れたりしていない。
だけど、長かった7回表がやっと終わり、7回の裏の夢原高校の攻撃は、三者凡退で呆気なく終わってしまう。
7回が終わった時点で、4点差。
高校野球は、7回を終了した時点で、悪天候で試合の続行ができないと判断されると、雨天コールドゲームになってしまう。
雨がさっきよりも激しくなってきているし、まだ選手達がベンチから出てこない。
嫌な予感がする。
このまま試合が終わってしまえば、翔太達の負けが、ここで決定してしまうのだ。
「あれ? どうしたんかな」
前の席の女生徒が指をさした。
球場スタッフが、ホームとマウンドを中心に、内野グラウンドにビニールのシートを敷く準備を始めている。
その時、球場にアナウンスの声が響き渡った。
――ごらんのように雨が激しく降ってまいりましたので、試合を一時中断いたしております。ご了承くださいませ。
今日の天気予報は、曇り時々雨だった。
だけど、駅を降りてからここに着くまでの間に、雨はもうポツポツと降り始めて、それから段々強くなってきて、止むこともなくずっと振り続けていた。
アナウンスを聞いて、本格的に帰り支度を始める人の姿が増え始めた。
「どうするー?」
「柏木くんは見たいけどなぁ」
「もう、4点も取られたし、試合結果は見えてるもんな」
「雨もやみそうにないし」
前に座っている女生徒達も、帰る相談を始めている。
(雨、あがってくれれば、ええんやけどなぁ)
翼は恨めしそうに、どんよりと重たい雲が立ち込める空を見上げて溜め息を零した。
ともだちにシェアしよう!