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文月(15)
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翼はスマホの天気アプリを起動して、5分毎に更新される雨雲レーダーを何度も確認していた。
さっきまで、この球場のあるエリアは、濃い青のマークで覆われていたが、今は薄い水色に変わっている。
時間を進めてみると、雨雲が東へと流れていって、青いマークが減っている。
試合が中断してから、もうすぐ30分。
雨は、さっきよりは小降りで、遠くの西の空に目を向けると、雲が薄くなり、少しだけ明るくなってきているのが見える。
この分だと、なんとか試合は続けられそうだ。
相手チームのスタンドは、試合が始まった時と殆ど変っていない。たくさんの人で埋まっている。
しかしこちらの応援席は、試合が始まった時は、座る場所もないくらいに、人がいっぱいだったのに、今は半分くらいの席が空いている。
前に座っていた女生徒も、もうとっくに帰ってしまった。
これが強豪校と、名も知られていない弱小チームの差なのかと思うと、少し寂しい気持ちになってしまう。
『他の学校に比べてうちの学校、運動部の試合とかの応援、全然力入れへんよな』
前に、そんなことを翔太に言ったことがある。
『期待されるよりも気がラクや』
翔太はそう言って笑っていた。
(俺が期待してるっちゅーねん……)
先日のノーヒットノーランで、少しは名前も有名になったかもしれないが、翔太はもっと周りに期待されるべきだと、翼は思う。
だけど、野球は9人でやるスポーツだ。一人だけ秀でていても、試合に勝つのは難しい。
だから、どうして推薦を受けなかったんだろうと、思ってしまう。
そうしたら全国だって夢じゃなかったのに。
翔太が甲子園に出てるところを観てみたかった。それは翼の夢でもあったのかもしれない。
でもまだ試合は終わっていない。たぶん再開されるだろう。
(試合が中断して、翔太は今頃何を考えてんのやろう……)
4対0の現実は、あまりにも厳しい。
4点を取られたことに責任を感じて、落ち込んだりしてないだろうか。
自分も野球を続けていたら……と、つい思ってしまうのは、こんな時だ。
なんにも出来ないかもしれないけれど、冗談でも言って励ますことはできたかもしれないと……。
自分から距離を取ったのに。辞めたことを後悔してしまうのだ。
考え込んでいると、不意にあちこちからパチパチと拍手する音が聞こえてきて、翼はグラウンドに目を向ける。
球場スタッフ達が、内野グラウンドに敷いていたシートを取りに出ていた。
これから砂を運び入れ、グラウンドを試合ができるように整備するのだ。
さっき湧きおこった拍手は、グラウンド整備をするスタッフへの労いと、試合が再開されることへの喜びの拍手だった。
もちろん、翼も嬉しくて立ち上がり、グラウンドに向けて拍手を送った。
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