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葉月(1)
――――葉月
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8月に入り、翼は、予備校や学校の特別補講で、忙しく過ごしていた。
7月の終わりのあの日、突然翼の家にアイスを持って遊びに来た翔太とは、あれから会っていない。
元々学校ではクラスも違うし、遊ぶグループも違うので、こまめに連絡を取り合ったりしない。
幼馴染なんて、そんなもんだ、それが普通なのだと、翼は自分に言い聞かせてきた。
会えない時間が長くなってしまう事には、もうとっくに慣れている。
夏休みももうすぐ終わるという頃に、翼の住む地域では、わりと大きな夏祭りが行われる。
街の中心部にある大きな公園から、メインの商店街を山側へ突き抜けて、神社までの長い距離に屋台が並び、祭りの最後には、花火が上がる。
翼も、この日は、いつもツルんでいる同じクラスの友達と、祭りに行く約束をしていた。
――翔太も祭りに行くのかな。
ふと、頭を過る。でも、きっと、翔太は野球部の友達と一緒に行くだろう。
小学生の頃は、よく一緒に屋台を回って、最後の花火も一緒に見るのが恒例だった。だけど中学からは、どちらからともなくお互いの付き合いを優先して、夏祭りも別々に行くようになっていた。
待ち合わせ場所に行くと、人混みの中に同じクラスの瑛吾 と健 の姿が見えた。
「おーい、翼、こっち」
二人も翼の姿を見つけ、手を振った。
「お、ちゃんと浴衣着てきたやん」
「めんどくさいのに、絶対着てこいって言うたんは、健やろ」
「浴衣着てたら、もしかして可愛い浴衣の女の子、引っ掛けやすいかもしれへんやん」
「んな都合のええ話、あるわけないやろ」
どうでも良い話をしながら、三人でぶらぶらと屋台を見ながら歩いていると、前方に見覚えのある顔が見えた。
背が高いから、人混みの中に居てもすぐに分かる。
「……翔太」
小さく呟いた瞬間、数メートル先にいる翔太も、翼に気付いて目が合った。
人の流れに逆らうように、翔太がこちらに近づいてくる。たったそれだけの事なのに、胸がドキドキと騒めいた。
「なんや、翔太も来てたん」
そんな気持ちを知られたくなくて、さも何でもないふりをする。
うん。と、声には出さずに頷く翔太の後ろから、もう一人見覚えのある顔が覗き込んできた。
「あっれー? 翔太の幼馴染くんやん。名前は確か……翼くんやんな?」
軽い口調で話しかけてくる彼は、野球部の主将であり、キャッチャーの、水野 良樹 だ。
たぶん、高校に入学してからは、翼よりもずっと長い時間を翔太と一緒に過ごしているだろう。ピッチャーの翔太にとっては、なくてはならない存在だ。
そして、その後ろから、ちょこんと顔を覗かせたのは、ロングヘアを可愛く結い上げた、浴衣姿の女の子。
ヒュウッと、後ろから健が口笛を吹いた。
「こんばんは」
野球部のマネージャーの相田 由美 だ……。
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